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僕の一日 72

歩さんたちを外まで見送ったあと足取り重くVIPルームに向かう。
店が閉店したあとに食事だから、部屋に戻るのは明け方になる。
明日は遅番だから4時間ぐらいなら眠れるだろう。

VIPルームの扉を開けると不機嫌そうに彼女が座っていた。

「もう~、どこに行ってたの?」

『すみません、あとは大丈夫なので』

「ホントに?やったー」

嬉しそうに抱き着いてきた彼女をソファーに座らせ、シャンパンをグラスに注いだ。

『何がいいか決まりましたか?』

「なんでもいいならホテルがいいー!」

『いや、だからそれは無理です』

「……他のお客とも一切しないんだ」

『はい、しません』

きっぱりと否定する。

「ふーん……じゃあ近くの居酒屋でいいや!」

疑うような目を一瞬向けたが、パッと明るい顔をみせた。

『わかりました。予約入れておきますね』

店から近くの居酒屋に予約の電話を入れつつ空になったグラスを手に、
バーカウンターへ向かった。

『いま時間大丈夫だったらホットミルク作ってもらえるかな?』

カウンターでバーテンダーの役を一手に引き受けている片桐潤にお願いする。

「大丈夫ですけど、京子さんからオーダーが入ったんですか?」

『いや、飲むのは僕です』

流し台においてあるスポンジに洗剤をつけ、持ってきたグラスを洗いながら答えた。

「え?どうしたんですか?」

『ちょっと胃が……』

カウンター内にある冷蔵庫から牛乳を取り出し火にかけながら、
心配そうな顔をした片桐に気づき、言葉を続けた。

『いっぱい飲まなきゃいけないかもしれないから、最初に牛乳で温めてからと思って』

「無理しないでくださいね。体調悪くて休んでたんですから」

『うん。ありがとう』

「えー、直哉くん休んでたの?」

少し離れたところから、低くかすれたの女性の声がした。
声がした方に目を向けると、客のひとがグラスを持ってカウンターの席に腰かけた。
金髪のロングヘアーを指に絡ませ、
つけまつげをバサバサさせながら上目づかいで俺の顔をのぞき込んだ。


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| 「僕の一日」  | 00:43 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 71



「私が友達だから言いにくいんじゃないの?」

美貴さんの問いに歩さんが困ったような表情をみせた。

「全然関係ない人だったら言えるんじゃないの?」

「でも……」

「そういうのダメですか?」

美貴さんの問いに即座にダメと言えないのが俺の悪いところだろう。
一度客として来てくれた人と連絡を取り合うのは普通であり、何の問題もない。
そこから再度、店に来てもらえるようにするのも仕事である。

けれどホストが目当てで来たわけじゃない大学生の二人がまた来てくれる可能性は低いし、
俺自身あまり大学生の客は対応したくない。
大学に行くより、ホストクラブに通うためにバイトばかりするようになって、
学業がおろそかになってしまうからだ。

お金を払えなかった場合は、担当ホスト本人が穴埋めしなくちゃいけないし、それは避けたい。
指名をもらえばその分だけ給料に反映されるが、誰彼構わずいいと思っているわけじゃなし、
客として来てくれるから電話をするわけで、そうじゃない人に連絡をする必要はない。
あくまでも客だから相手をするのだ。それで金をもらう。
自分を指名してくれる客は1人でも多い方がいいが、
なんとしてでも歩さんたちに来てもらわなきゃいけないわけじゃない。

必死になって客を集めなきゃいけないわけでもないのだ。
今は。

『えーと、さっき歩さんには言ったのですが……』

「それはダメだよ。それじゃただの友達になっちゃう。
 直哉さんのはあくまで仕事だもん」

俺に代わって歩さんが答えてくれた。

「そうだよね、無理だよね。
 せっかく糸口見つけたと思ったんだけどなあ」

美貴さんが残念そうにつぶやいた。
胸が少し痛いが俺自身、時間も精神的にも余裕がない。
申し訳ないけど相手にできない。

『ごめんね』

「いえ、私こそ今日はありがとうございました。
 こうやって少し話せるようになっただけでも良かったです」

小さいが芯のある声で頭を下げながら歩さんが言ってくれた。
「力になれなくてごめんね」と言うと、大きく首を振った。

「お会計お願いできますか?」

『まだ時間前ですが大丈夫ですか?』

「はい。いろいろありがとうございました」

きっとふたりがこのホストクラブに来ることは無い。
歩さん本人にはある程度ホストクラブがどんなものかも伝えたし、
きっと別な方法で男嫌いを克服するだろう。

何とかしてあげたいと思う気持ちも嘘じゃないけれど……。
でも。
一番に考えなければいけないのは、もっと別なことだから。


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| 「僕の一日」  | 00:57 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 70

『そのせいで携帯を……』

意識が違うところへ向いていたらしい。
自分で何を話しているのかを理解するのに、わずかな時間を要した。

隣にいる人に悟られないよう周囲を見渡す。
VIPルームに客と二人きり。
あぁ、そうか京子さんが店に来て、歩さんたちの席を離れたんだ。
腕時計を見て、時刻を確認する。
あと20分で歩さんたちが帰る時間だ。

「それで?」

『……体調が良くなくて外に出られずで……
 携帯ショップにも行けず……』

「もう大丈夫なの?」

『はい、長い間すみませんでした』

「よかったぁー!」

ぎゅっと俺の左腕に抱き着き頬をすり寄せてきた。

「ねぇー、お店終わったら好きなとこに連れて行ってくれるんだよね?」

甘ったるい声。

『なにか食べにいきませんか?と言ったんですよ。
 どこにでも付き合うとはいってません』

「ええぇー、ウソぉ~。
 今日こそラブホに行けると思ったのにー」

『そういうことはしないって、何度も言いましたよね?』

「ちょっとくらいいいじゃん!」

『ちょっとって……』


どうしてそんなに俺なんかと寝たいんだろう。
別に俺じゃなくても……。

『ホテルはダメですけど、好きなものご馳走しますよ。
 開いてる店は限られますが何がいいか考えていてください。
 ちょっと席外しますね』

「どこいくのー?」

『ほかにも指名入ってるんです。すみません』

「えぇ~私VIPなのに~。だめ~!」

『ちょっとだけ。ごめん』

優しく髪を撫でると「すぐに戻ってきてよ!」と言って、
手を放してくれた。

急ぎ足で歩さんたちがいるテーブルへ向かう。
すでに帰っているならそれはそれでいいのだが……。

俺の姿を見つけた美貴さんが歩さんに何かを話していた。
うつむいていた歩さんがパッと顔を上げ、嬉しそうに笑った。

『すみません!二人きりにしてしまって』

「いえ、私たちが誰も来てほしくないって言ったんですから大丈夫ですよ」

美貴さんが「気にしないでください」と笑顔で言ってくれた。

『歩さん、大丈夫?』

隣に座り声をかける。

「はい、あの……大丈夫です」

『さっき彼氏がいたっていう話だけど……』

「あ、それは……」

言いかけて言葉に詰まった歩さんに代わって美貴さんが話し出した。

「この子、見ての通りカワイイのでモテるんです。
 なので今まで告白されて付き合ったことも何度かあって、
 男が駄目っていうのはつい最近のことで……」

『その先日別れた彼氏は?』

「大学のサークル仲間です。
 2つ上の先輩なんですけど、先輩から告白されて付き合って。
 でもその人、本当に優しくて、乱暴するような人じゃないんです」

『歩さん、それは本当?』

優しく声をかけるも、返事はない。
美貴さんと目を合わせると、何とも言えない重い空気が流れた。
優しい人というが、そうだったら突然ダメになるはずもないわけで。

『歩さん。時間が過ぎて落ち着いてからでもいいから、
 美貴さんに話すといいと思う。
 そうすれば少しずつ変わるとこもあるだろうし』

「はい……」

「あ、そうだ」

うつむく歩さんを心配そうにみていた美貴さんが突然顔を上げ、言った。

「携帯番号って教えてもらえますか?」

『番号?』

「ほら、私に言えなことでも直哉さんになら言えるとかあるんじゃない?」


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| 「僕の一日」  | 02:08 │Comments4 | Trackbacks0編集

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