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僕の一日 66

俺は正直に話した。

自分の周りにある色んなものの空気を自分に取り込んで消化するということ。
気をつけていないと無意識のうちに近くにいる人に共感して、
受け入れてしまった空気に酔ってしまい、具合が悪くなるときがあることを。

「人酔い」ならば経験があるひとも多いはずだが、
それとはまた違うもので、上手く説明できないけれど、
周囲の空気が自分の中に入ってくる感じが心に大きな負担をかけているのだ。
知っている人ならともかく、ただそこに居合わせた人の空気や表情、
耳に入ってくる雑然としたたくさんの音や人の声ですら、
そのまま取り込んでしまい、処理しきれずどんどん溜まっていく。

神経を張りつめたり、イヤホンをして好きな音楽を流すことで軽減も出来るが、
その効果もわずかで、視界から入る情報を遮断することはできない。

そのほかに人の空気が身体の中に入ってくるのと同じく、音となって聞こえることもあるし、
ハッキリと目に見えるわけではないけれど、人の色を感じることもある。
音と言っても耳鳴りに近いもので、大きい音じゃなければそんなに苦しくないが、
耳をつんざくような音が突然聞こえるときもある。

小さい頃からずっとそれが普通だと思っていたし、誰かに話そうと思ったこともなかった。
そうやってみんな生きていると思っていたから。

高校生になって、それらが以前よりも辛く感じるようになり、
対処法があればとネットで調べたとき、初めて現実を知った。

俺のような症状はなにひとつ載っていなかった。

誰もそんなこと感じていないし、聞こえたり見えたりしないという事。
きっと実の親ですら。

超能力者や霊能者と言われる人たちが、視えたり聞こえたりすることはあるが、
そういうことでもない。

なんて言ったら伝わるのか……。


自分はどこかおかしいのだろうか。

みんなはそうやって普段の生活を送ってはいない。

本当は幼いころから精神的に病んでいて、
周囲は俺がおかしいことを知っているが、それを隠して接しているのだろうか。

いや、そんなこと、あるわけない。
おかしかったら病院へ連れて行かれるはずだ。


周りは俺が感じているものを感じていないし、
俺が感じていることに気づいていない。

だったらこのまま黙っていよう。
変な人と思われたくない。


そう。
何も言わなければ、きっと大丈夫だ。

そうやって自分の中に押し込めはじめてから、
以前よりも敏感に感じるようになっていった。




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| 「僕の一日」  | 04:39 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 65


突然父が亡くなり、当たり前のように楽しかった毎日は一瞬で崩壊した。

小学6年生のときだった。

残された母と弟は自分が守らなくちゃいけないと思い、
それからずっと母の支えになろうと子供なりにがんばってきた。
良い大学に入って有名な企業に就職して、母と弟に楽をさせてやろうと思った。
単純だったが、それが自分にできる家族の守り方だと思った。
しかし高校に入り、大学に進学するには大金が必要なことを知る。
ひっ迫した生活だったわけではないが俺が大学に行けるだけの金はなく、
進学は諦めなければならなかった。

朝から晩まで働きづめの母に代わって家事をこなし、歳の離れた弟の面倒をみた。
母が休みの日曜にはコンビニでバイトをし、少しずつお金を貯め、
わずかな貯金を手に高校卒業と同時に家を出てホストの仕事を始める。

それ以後、体調を崩して働いていない時期もあったが、毎月20万の仕送りを欠かさなかった。
まとまった金が出来れば弟の大学費用として別に送っていた。

こんな風にホストとして働けるのは一時のこと。
ある一定の年齢になればホストとして働けなくなる上、
学歴も職歴もない自分がいい仕事に就けるはずもない。
今のうちに出来るだけ稼がなければいけない。
それがいまの自分にできる家族の守り方。

そう信じて働いてきたが、現実離れした世界は子供の俺には辛かった。
ズレた金銭感覚を持つ人たちを相手に、
少しでも金を貢いでもらうためにどんなことだってした。
毎日夜を必死で生き、ついこの間まであった普通の日常から離れていった。

そうしてホストとしてひたすら働いて1年間No.1で居続けた。

胸が重く息をするのも苦しく感じるようになったのが、その頃だった。

きっと疲れているからだろうと休みをもらって一日中寝てみたりしたが、
一向に良くなる気配がなかった。
19歳だった俺は酒を飲んでいないため、
病院に行っても身体の機能に問題はなく「疲れがたまっているんでしょう」と、
点滴をされてちゃんとした食事をするように言われるだけだった。

歩いているだけで苦しくて座り込んでしまいそうになる。

そんなことを客に話したことがあった。



相手は俺より15歳年上の人妻だった。名前は井浦。
知性が表情に表れていて、品のある女性だった。

医者であるその人は同じく医者の男性と結婚。
それを機に専業主婦となった。

けれど仕事で忙しい夫は家に帰ることも少なく、
週に1度着替えを取に戻ってくる程度で、あとは病院に泊まり込む毎日。
つい最近まで自分も同じような現場で働いていたのに、今は広い一軒家に一人きり。
朝起きて、ご飯を食べ掃除をし、午後には自分の分だけの食材を買いに出かける。
週に一度、大量にでる夫の洗濯物を洗うのが一苦労だが、
それさえ終われば特にすることはなかった。

時には夫の仕事の資料を片づけるときもあったし、雑用は進んで手伝った。


「医者だった頃の忙しさから比べれば今は幸せだろう?」


かけられた言葉は欲しかったものとはまるで違った。 

お金に不自由はしていない。
欲しいものは買える。
でもモノが欲しいわけではない。

理解のある妻でいたい。
そんな思いから本当の気持ちは言えず、
気を紛らわすためにホストクラブ通いを始めたという。


初めて店に来た時から俺を指名してくれ、いつも高価なボトルを入れてくれた。

無茶な要求をしてくることもなく、穏やかにおしゃべりをするだけ。
隣に座って会話することが心地よくさえ思えていた。


ある日、出社する前に一緒に食事をしたときだった。
フレンチレストランに行こうとしたところ「ファミレスかスタバがいい」と言われ、
お店からほど近い場所にあるファミレスに行った。

ドリンクしか頼まなかった俺に優しい言葉をかけてくれた。

「最近元気がないけど大丈夫?」

この人はもしかしたら分かってくれるかもしれない。
医者だし、いろんな人を診てきたんだから、
何か知っているかもしれない。


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| 「僕の一日」  | 18:07 │Comments2 | Trackbacks0編集

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