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秋の一日 6

6

「もしもし?お姉ちゃん?」

「うん、どうしたの?」

携帯電話の向こう側から、いつも通りの声。
早番であれば13時30分頃から休憩だと知っていたので、
そこに合わせて電話をした。

「あのね、今日そっち泊まっていい?」

「うーん、今日は難しいかなー。
 スタッフがひとり休んじゃって代わりにフルで働くから、
 帰り遅くなっちゃうんだよね」

「そっか……」


フルで働いて疲れて帰って来るところに泊まりに行くのはちょっと気が引ける。
今日は諦めて家に帰ろう。


「なにかあったの?」

「ううん、なんでもないよ!」

「そう、なら良いんだけど」

「大丈夫!じゃぁ授業始まるから切るね」

「うん、なんかあったら連絡するんだよ」

「わかった。バイバイ」


通話の切れた携帯に目をやる。


明日電車に乗るの怖いな。
せめて一緒に電車に乗ってくれる人がいればいいんだけど。

こんなとき、彼氏がいたら。

携帯のアドレス帳を開き、さ行にカーソルを合わせる。

さ行の名字の知り合いは多いが、
「し」からはじまる名字は1件しか登録されていない。


もう別れたのに消せずにいるアドレス。
同じ大学だから偶然合うこともあるし会えば挨拶ぐらいはするけれど、
もう以前のように仲良く会話をすることもない。

未練があるわけじゃないけれど。

一度は好きになった人だから。

嫌いになったわけじゃないし。


でも引きずってたら次の出会いが来ないかもしれない。


……出会いはあった。今日。さっき。


あの人が助けてくれた駅であの時間に待っててみよう。
1ヶ月ねばって会えなかったら運命の人じゃなかったということで諦めよう。
心の奥底から湧いてくる意欲を胸に、午後の講義が行われる教室へ向かった。



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| 「僕の一日」  | 02:32 │Comments2 | Trackbacks0編集

秋の一日 5

5

いつもより何倍も速く目的の駅に着く。
これでこの人とはサヨナラしなくちゃいけないと思うと寂しい気持ちになった。


「本当に、ありがとうございました」

無事に何事もなく目的の駅に着くことが出来た。
急ぎ足で改札口に向かう人たちを背に深々と頭を下げると、
『いえ、これからは気をつけて下さい。それじゃ』と言ってさっさと反対側のホームへと向かって行ってしまう。

え?ちょっとまって!なんかこうもうちょっと、余韻っていうか名残惜しさっていうか、
そういうのあってもいい気がするんだけど。

なんて自分勝手なことを考えてる間にも、あの人が遠ざかっていく。


せめて名前ぐらい教えて欲しい。


「あ、あの!」


私にしてはかなり大きな声。
痴漢に遭ったときこれくらいの声を出せばよかったのに。

「あの…」

気づいたら呼び止めてたけど、なにを話せばいいのかわからない。
どうしよう。
困ってる。
せっかく立ち止まってくれたのに。


「…?…もしかして具合でも悪いですか?」


え?違う。
そうじゃない。

「いえ!そうではなくて…」と反射的に答えてみたけれど、
じゃぁどうなんだっていうのが全然出てこない。
このままじゃただの痴漢に遭ってた変な人になっちゃう。


視線がつま先に落ちて靴の汚れが目に入って、
「あぁ、ちゃんと朝に気づいてれば、きれいな靴を履いてきたのに」と、
返事とは関係ないことを考えてしまった。

汚れた靴の先に黒のコンバースのハイカットスニーカーが見えた。
顔を上げると心配そうな顔をして、
「…何か俺のことで聞きたい事でもありますか?」と、声をかけてくれた。

どうしてこの人は人がして欲しいって思うことを、
何も言わないのに分ってしまうんだろう。

もしかしていま私が思ってる下心も視えているのだろうか?


「…あ…あの名前…」

なんとか口にした言葉も語尾の方は声にならなかった。
さっきはあんな大声を出せたのに。

少し黙ったあとに「俺の名前ですか?」と聞き返してきた。
やっぱり突然名前を聞くっておかしいよね。
普通お礼がしたいとか、そういうこと先に添えるよね。

どうしてうまくしゃべれないんだろう。

「はい…」

すっかり意気消沈してしまって、また靴に目が行ってしまった。

気持ち悪いとか思われてるのかな。



「有利といいます」



え?


顔を上げると伏せ目がちに困ったような表情を浮かべていた。


痴漢から助けてくれたときのような優しい声。
聞く人を安心させる響きがある。

なのに。


なぜか、足がすくんでしまう。

どうしてだろう。

さっきはあんなに隣にいるとホッとしたのに。
さっきと同じ優しい目をしているのに。

でもその奥にはなにか……。
まとう空気も、なんか、少し……。

足元に黒い渦があるみたい。


怖い。


……違う、そうじゃない。
ちゃんとお礼を言わなきゃ。


「あ、ゆ、ゆりさん。あの…本当にありがとうございました」


身体を曲げられるだけ曲げて頭を下げた。


「いえ、それじゃぁ気をつけて」


笑って小さく頭を下げ、反対側のホームへと歩いていった。

助けてもらったのに、何もお礼ができなかった。
もしもまた会うことがあったら、そのときはお茶に誘ってみよう。


あんなカッコイイならきっと彼女はいるんだろうけど。


最初から変わらない優しい口調と紳士的な対応。
こんなに素敵な人がいるのかっていうくらいカッコよくて、
見ず知らずの人を助けてくれたいい人なのに。


どうして怖いなんて思うんだろう。

痴漢のせいで男の人が怖くなったのかな。



でも、なんかそういうんじゃない気がする。



あの人は何歳なんだろう。
同い年ぐらいかな。
一緒の大学だったら色々接点があってよかったのにな。


でも、そんなうまい話あるわけない。


助けてくれた駅が目的地と言っていたから、そこで待っていれば会えるかもしれない。
けどそんなストーカーみたいなしたら、今度こそドン引きされるかもしれない。
どうしたらまた「偶然」みたいな感じで会えるのかな。


「お姉ちゃんに相談してみよう」


ついでに今日は泊めてもらえるようお願いしよう。
突然遊びに行っても文句の一つも言わずにいつも部屋に入れてくれるし、
仕事で忙しいだろうから、なにか夕飯を作ろう。
そして仲良く一緒に眠ろう。




そのときの私は気づかなかった。

助けてくれたその細い指が誰を探していたのか。

その腕にある傷も、何もかも。


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| 「僕の一日」  | 15:43 │Comments2 | Trackbacks0編集

秋の一日 4

4

ホーム中央に戻り、電車を待った。
すぐ隣に立ってくれている人の顔を盗み見る。

優しい目。

安心する。

ずっとこうして一緒に立っていたい。

なんてそんな願いは叶わず、ラッシュ時は次々と電車がくる。
がっかりしたのと同時に、少し怖くなった。
またあの男がいたらどうしよう。
それか別な誰かが…。

手のひらにじんわりと嫌な汗を感じる。

プシューというドアが開く音と同時に、人が吐き出され自分が乗る瞬間が来た。

鼓動が速くなる。
足がうまく動かない。

そのとき。


ふわりと優しく私の手を握って、電車の中へと引っ張ってくれる姿が目に映った。
手から伝わってくる温度は、私を安心させてくれる。

「ココなら少しはマシだと思いますよ」

頭の上から声がして顔を上げると優しく笑う顔があった。
気がつけば車両の隅のところで、痴漢に遭わないよに、潰されないよにと、
私を窓側の壁を背に立たせて自分は周りに背を向け、
この満員電車の中でわずかながら隙間を作ってくれていた。


「…すみません…ありがとうございます」


少し声が震えた。
ちゃんと聞こえたかな?

こっちを見て小さくうなずくと、握ってくれていた手をゆっくり離し、
顔を上げ周囲に目を向けた。
あの痴漢がいないか確認してくれているのかな。

なんだろう。
この安心感。

ずっとこのままならいいのに。

でもたった3駅だからすぐに着いちゃう。
もう少し先まで行ってもいいのに。

こうして隣にいられるなら。


カバンを持つ手に力が入る。


もう、何考えてるんだろう、さっきから。
顔が熱い。

どうか気づかれませんように。


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| 「僕の一日」  | 17:22 │Comments2 | Trackbacks0編集

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