秋の一日 3

3

私の頭の中はだいぶ混乱していたらしく、
変なことを言ったりおかしな行動をとっていたことに気づいたのは数分経ってからだった。
恥ずかしい。
痴漢に遭ってたところを見られただけでも恥ずかしいのに、
いまだって顔は真っ赤になってるはず。

隣に立つ恩人のを横目で見る


色素の薄いきれいな髪と白い肌。
細く通った鼻と二重の大きな瞳。
こんなきれいな顔を見たことがない。
きっとモテるだろうなぁ。
背も高いし。
雰囲気もカッコイイ。

「ところで仕事に行く途中じゃなかったんですか?」


急にこっちを見て質問してきた。
うわっ。
そんなきれいな顔で声かけられると緊張してしまう。


「あ、えっと、大学に行く途中で…」


私、なに考えてるんだろう。
痴漢から助けてくれた人を相手に。
自分の変わり身の早さに呆れてしまう。
さっきまで男が怖いって思ってたくせに……。


「そうですか。じゃぁ、あんまり遅刻は気にしなくても大丈夫ですよね」

「は、はい…」


それはそうだけど、あんまりゆっくりすると講義までに間に合わなくなる。
単位は大丈夫だけど、授業は休みたくない。

「このラッシュが少し落ち着いてから乗った方が良いと思いますよ」

「えっと…はい」


このラッシュっていつまで続くんだろう。
落ち着くの待ってたら講義が終わっちゃう。


「俺はココの駅なんですが、一緒に休みますか?
 怖いなら目的地まで一緒に乗っても構いませんが」

「…えっと その…」


もちろん一緒に乗ってくれたらそれはすごく嬉しいけど、
そんなこといま会ったばかりの人にお願いできない。


「駅は何処ですか?このラッシュはまだ続きますから、一緒に乗りますよ」

天からの言葉。

「ありがとうございます」


やっと「ありがとう」って言えた。
しかも一緒に電車に乗ってくれるなんて。
もしあの痴漢がいても大丈夫。
この人が助けてくれる。
もしかしたら、今後は手をだしてこなくなるかもしれない。

大丈夫になるかもしれない。


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| 「僕の一日」  | 00:54 │Comments0 | Trackbacks0編集

秋の一日 2

2

駅のホームで電車を待っているとき、いつもの男がいないことを確認する。
見た感じただのサラリーマン風だから、この人ごみの中にいるとわかりにくい。
なるべく女の人が多いところに乗り込もう。

OLさんらしき人の後ろからなんとか乗り込んだ車内でカバンを抱いて、
ただ早く駅に着くのを待つ。
アイツがこないように祈りながら。

けれどそんな祈りなんて、誰に届くわけもなく。
いつもの手が背後にあることに気づいた。

「!!」

声を出さないと。
うつむいちゃだめ。
助けを呼ばないと。

誰か、助けて。


耳にかかる荒いな息遣いが気持ち悪い。
その手が自分を触っているかと思うと吐き気がする。
なのに、声がでない。


まだ電車に乗って数分なのに、
昨日とは違う車両なのに、なんで居るの?
どうして私が来るところがわかるの?

なんで?

触らないで。

誰か。

誰か。



電車が減速するとともに、男の手が一瞬、離れた。


もしかして、誰かが気づいてくれた?
次の駅で降りて、一度ホームを出よう。
時間を置いてから、また乗りなおしても講義までは間に合う。

もうすぐホームに着くというところで、また手が伸びてくる。

今度は両手。

イヤ。

助けて。

ヤダ。


誰か!


カバンを持つてにに力が入ると同時に電車が止まり、いっきに人が吐き出された。


私も、降りなきゃ。
そうすれば、この手から逃げられる。

歩き出そうとしたとき、男の手が胸を押さえる。


一瞬で凍りついた身体。
力が入らない。
歩けない。
どうしよう。

みんな降りていく。

誰か気づいてよ。

助けてよ。

お願い!!


心の中で助けを呼ぶと予期せぬ力でドアの方へ引っ張られた。。


「ぇ……」


つかまれた腕の先には、長身の影。

うまく身体が動かず、そのまま引きずられるように電車を降り、ホームの隅を歩いて行く。


誰、この人。

歩くの、速い。

待ってよ。


骨ばった細く長い指が私の腕をつかんだまま、離そうとしない。
細い、腕。

その手に連れられるままホーム端の方へ行くと人の数も少なくなり、歩くペースもゆっくりになる。

ふいに振り返ったその人は私の顔を見て、少しだけ目を細めた。


きれいな顔。


その整った顔を見たら、なぜだか安心した。


この人が、助けてくれた。
もう大丈夫。




「相手は電車から降りてないので、もう大丈夫です」


優しい声…きれいな顔をしている人は声もきれいなんだ。
自分の置かれている状況を忘れて見入ってしまう。
その優しい声の主はつかんでいた腕をゆっくり離し、すこし困った顔をして笑った。


「大丈夫です。安心してください」


背が高いのに威圧感がまるでない。
少し猫背だから?


「あの男の人……いつもあの電車で?」


あの男?

あ…、私…。

急に現実に引き戻されて、また怖くなってうつむいてしまった。

やだ、怖い。
アイツ。
なんで。
もうイヤだ。


「今度は違う車両か、時間帯を変えた方が良いと思いますよ」

「…何も言ってないのに…何で…」

「…何となく」


この人は私を助けてくれた人。

大丈夫。


軽く深呼吸をし、心を落ち着かせた。
落ち着いたらその分だけ恐怖心が戻って、
この2週間され続けたことがすごく怖くて、恥ずかしくて、
誰にも助けてって言えなくて、腹が立って、悔しくて、苦しくて、
こんな風になってしまったことをどうしたら消化できるのか分らなくなった。


「わ……私、恐くて、何も喋れなくて、動けなくて、それで…」


もう大丈夫だから。
この人が、そう言ってる。


涙がやっと零れてきて、のどで詰まっていた異物が取れた気がした。


「うん。次は別の電車に乗りましょうか」


笑った顔が、安心をくれた。


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| 「僕の一日」  | 16:00 │Comments2 | Trackbacks0編集

秋の一日 1

の一日」

1

大学まで満員電車に5駅分耐えなければならない。
身長が低い私には、埋もれないように立っているだけで精一杯。
なるべく空いている車両に乗り込むけれど、通勤ラッシュ時に乗る電車はどれも缶詰状態だった。

大学生になって3度目の秋。
肌寒くなり朝晩にはコートが必要になった頃。

最初の数日は、満員電車の中で隣に立つにとの手がぶつかっている程度に思っていた。
だから特に気にもしないで毎日同じ時間の電車に乗っていた。
それが痴漢と気づいたときにはすでに遅かった。
相手は私が車両を変えようと、時間帯を変えようと、
この人ごみの中から見つけ出し、同じ車両に乗り込んでくる。
逃げるに逃げられない満員の車内。
かといって助けを呼ぶ勇気もなかった。

そんな日が2週間ほど続いたある日。
朝の6時30分。
朝食を作ると同時に、ふたり分のお弁当を作っていると、
お父さんが私の変化に気づいて声をかけてきた。

「里奈、最近様子がおかしいが、どうかしたのか?」

料理をする手が止まった。
本当は言いたい。
でも、そんなこと言ったら、毎日車で送るとか言い出すに違いない。
毎晩遅くまで仕事をして帰ってくるのに、そんなことさせるわけにもいかない。

「なんでもないよ、大丈夫」

近いうち、お姉ちゃんがひとり暮らししてる部屋に泊めてもらおう。
大学近くまで行くバスがあるから電車に乗る必要もない。

そう。

時間をおけば、きっと大丈夫。
お父さんにもこれ以上、心配も迷惑もかけたくない。

この時はそれが安直過ぎる考えだと、そのときは気づかなかった。


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| 「僕の一日」  | 02:54 │Comments2 | Trackbacks0編集

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