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僕の一日 49

モデルをしていたと聞いたが、実際のところはどうだったのだろうと思う。
モデルとはその顔に託けて、服や小物を魅せるのが仕事である。
しかしこれだけ顔に目がいってしまうとなると、身に着けている商品ではなく、
それをまとう人そのものが売り物になってしまう。
商品がマネキンに負けてしまうのだ。
作る側は複雑な気持ちになるに違いない。
そりゃぁカッコイイ人が着た服はそれなりに売れると思う。
ただ「それなり」では困るわけで、
そこを考えれば「モデル」として使うには、二の足を踏んでしまうところだろう。


「おでこは切れてないから大丈夫だとは思うんだけど、鼻は大丈夫かな?」

『平気です!俺がぼーっとしていたせいで、スミマセン』

「いや、俺の方がごめんなさい。以後、気をつけます」


手を合わせ「ごめんなさい」と謝る斉藤さんが、やけに可愛く見えた。


『そういえば、どこから入ってきたんですか?俺ら全然気づかなかったですよ?』

「ん?通路側から入ったんだよ。いつもは店長しか鍵持ってないんだけど、
 ホラ今は出張中だから俺が預かってるの」

そう言いながらポケットから鍵を出してみせてくれた。
形の違う鍵が3つ、一つのキーホルダーにつながれている。

『へぇー。そこのドア開くんですね』

さっきぶつかったドアの対角線上にある、もうひとつのドアに目をやる。

このバックルームにはドアが2つある。
ひとつはいつもみんなが使っている、店内に入りレジの後ろから入るドア。
もうひとつが店の外側、つまり客が通る通路側から直接バックルームに入るドアだ。
今まで通路側から入ったのを見たことがなかったし、
必ずレジの後ろを通るように言われていたため、
開かずの扉だと勝手に思い込んでいた。


「鍵を閉め忘れたり失くしたりすると大変だからって、
 基本的には店長も使わないようにしてるんだけど、
 今日はちょっと使ってみたくなって、こっちから入ってみたんだよね」

ポケットに鍵をしまいながら満足そうな声で答えた。


「そうだ、体調はどうかな?それも気になって来てみたんだけど」


散らかり放題の机の上を整理しながら、いつもより少し低い声で聞いてきた。


『もう大丈夫です。本当にありがとうございました』


深々と頭を下げると、「それなら良かった」と安堵の声で呟き、
メガネを机の上に置くと束ねていたゴムをとり、髪をほどいた。

「実を言うと、かなり心配したんだ。顔色も悪かったし、雰囲気もだいぶ落ちた感じがしていたし、
 なにより目つきが悪くなっていってたからね」

『・・・目つき?』

さっきまでの笑顔は消え、珍しく難しい顔になっていた。
慣れた手つきで髪をすき結び直す。

雰囲気が落ちた?
暗かったってことか?

「うん。そうだな。まえからだけど、ときどき覇気がなくなるていうのか、
 何にも映ってないような、ひどい目をしてるんだ」

胸を掴まれたような感覚に襲われ、急激に身体が重くなった。
指にさえ力が入らなくなっていく。
鼓動は勢いをあげ、呼吸が苦しくなっていくのが分った。

自分のことには何一つ気づかれないように笑って、
その場にあわせ間違いなく“出来ていた”つもりだった。
仕事以外でも誰かが隣にいるとき、誰かに見られているときには自分を演じていた。
誰にでも平等だと評された学生の頃のように。
ここにいる人たちはみんな敏感ですぐに気づいてしまいそうだから隠すのに色々苦労していた。
“隠していた”つもりだった。
でも。


「必死になにかを“隠して”いるようだけど、俺には我慢しているように見えていたよ」


眼鏡のレンズ越しでさえその目に宿る強さに後ずさりしてしまいそうになるのに、
なんのフィルターもなしに見つめられると、金縛りにあったように身動きが取れなくなる。


「言いたくなければ言わなくていい。ただそれで他人を傷つけてはいけないよ」



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| 「僕の一日」  | 00:35 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 48

休んでいたぶん、知らない商品が店頭に陳列されていた。
それらを頭に叩き込んで、笑顔で仕事をこなした。
落ち着かないまま時間は過ぎ、仕事を切り上げる時間が来た。
レジの隣においてあるノートパソコンで、商品データを必死に打ち込んでいると、

「ホラ、もう時間だよ。あとはやっておくから今日はすぐに帰って休みなさい」

そういいながら相沢さんがレジの担当番号を俺から自分の番号へ切り替えていた。

『でもあとちょっとでコレ終わりそうなんですよ』

本当にあと5分あれば終わりそうな感じだ。
これさえ終わらせればキリもいいし、自分自身もスッキリする気がする。
そんなことを思いながらまたパソコンを打ち始めると、マウスをダブルクリック音が聞こえた。

『え?』

驚いて隣を見ると、相沢さんが少し怒った顔でマウスに手を置いたままこっちを見ていた。
パソコンの画面は商品データを打ち込むページからログアウトされ、
「パスワードを入れてください」と表示された商品管理の最初の画面に戻っていた。

「ほぉらぁ・・・さっさと帰る!そして寝なさい!自分が体調不良で休んでたこと忘れてない?!」

『す、すみません・・・・』

眉間にシワを寄せ、「これ以上ここにいるのは許さん」と言わんばかりの表情でにらまれた。
もはや1分も残業することを許されない。

「ミサもいいよ、途中まで一緒に帰ってあげて」

カウンター前の商品整理をしていた彼女が「わかりましたー」と笑顔で返事をした。


いつもと変わらない彼女の笑顔。
変わらないと思うけれど。


「何を見つめてんの?」

からかう様な声が隣からして慌てて振り返る。
その顔で逆にバレてしまう、なんて気づいた時には、すでに遅く。


「なんていうか、分りやすいよね。色々と」

『え゛・・・・・何がですか?』

急に変な汗が出てくる。
いいやいや、落ち着け自分。

「まぁ、大変だろうけど頑張りなさい」

『だから何のことですか!』

反射的に声が大きくなってしまう。
どうしたんだろう?と首をかしげながら、彼女がこちらを見ていた。

「ホラホラ、帰りなさいふたりとも」

バシッと背中を叩かれ、「仲良く帰りなさい」とバックルームの方へ促された。
バツの悪い顔を見られたくなくて、俯きながらバックルームのドアに手をかけると同時に、
ドアが勢い良く自分の方へ開き、思いきり顔面をぶつけてしまった。

『い・・・・って・・・・』

驚きと痛さのあまり、顔を両手で覆ったまましゃがみ込んでしまう。

「わぁーっ!悪い!!大丈夫か?!」

頭の上から聞こえた声に驚いて顔を上げると、両手で大きなダンボールを抱えた斉藤さんがいた。

「あれ?いつ来たの?今日は休みだった気がしたけど?」

「ごめんごめん!」とひたすら謝る斉藤さんに、相沢さんが少し離れたカウンターから声をかけた。

「あー、そうなんだけど、ひとつ仕事やらなきゃいけなくてー、って相沢サン、
 このダンボールをバックヤードに持っていってもらえる?」

「はい、いいですよ」

俺の頭の上でダンボールを受け取った相沢さんが軽そうにダンボールを抱えてお店を出て行く。
そのやりとりを呆然と見ていた彼女がカウンター内へ来た。

「ちょっと、大丈夫?すごい音がしたけど・・・」

その声に心臓が大きく鳴りながらも、「大丈夫」といいながらゆっくりと立ち上がった。
額と鼻を強打したらしく、その痛さに押さえた手を離すことができない。

「ごめん、ホントに・・・ちょっと見せて」

そう言いながら斉藤さんが顔を覗き込んできた。

「石川、悪いけど相沢が戻るまでレジお願いしていいかな」

「わかりました」

俺の顔を凝視しながら彼女に声をかけた。
こんな至近距離で斉藤さんの顔を見たのは初めてで、
ドキドキしている自分になんでだよと突っ込みを入れたりした。

「ドア閉めるから中入ってもらっていい?」

『は、はい!』

慌てて返事をする俺を見て、「うーん」と小さく呟いた。

『どうかしましたか?』

バックルームのドアを閉めながら聞くと、思いもしない言葉が返ってきた。


「そんなに緊張する?一緒に働いて2年も経つのに」

『えー、そ、そうですね……前もこんな話しましたね』

「俺のこと好きだとか言い出さないでね。そっちの方の人じゃないから」

『ち、違います!!』

「うん。よくわかってる。だからちょっと顔みせて」

そう言うと、息がかかるほど近いところで顔を覗き込まれた。

5センチぐらいしか離れていないんじゃないかというぐらいの距離で、その端整な顔を見る。
艶のある髪に色の白いきれいな肌。
水分の多い瞳。
そして耳の奥に響く低い声。



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| 「僕の一日」  | 01:45 │Comments2 | Trackbacks0編集

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