スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- │Comment- | Trackback-│編集

僕の一日 47

久しぶりの出社に、わずかながら緊張した。
どんな顔をしてみんなに会えばいいのか分らなかい。
こんなに休んだのは初めてだし。

9時10分。

いつもより少し早い。
バックルームのドアノブに手をかけようとして気づいた。
ドアの隙間から光がもれている。

もう彼女が来ている。

緊張の度合いが一気に増した。
ぎゅっと目を瞑ってドアを開けた。

「あ、おはよう!大丈夫?!」

嬉しさと驚きが混ざったような表情を、彼女がみせた。
ゆっくりと足を踏み入れると、彼女がぱたぱたと目の前まで来て顔をのぞき込んだ。

『おはようー・・・』

わずかに声が上ずる。

「心配したよー。ホントに大丈夫なの?」

いつも通りの彼女がいた。

うん、彼女だ。

自然と流れてくる気配が安心をくれる。
解けていく緊張。

『もう大丈夫。色々心配かけてごめんなさい』

「そっか、良かった」

ほっとした顔をした彼女を見て、自分も笑顔になった。

「斉藤さんから長引きそうだって聞いてたから」

『あ、うん。斉藤さんにはかなり迷惑かけた。みんなは何か言ってた?』

「みんな心配してたよ。アパートに行こうとしたんだけど、斉藤さんが
 “俺だけ行くから。みんなで行ったら大変だよ”って止められてた」

それで誰からも連絡がなかったのか。
そんな風なことは何も言ってなかった気がする。

斉藤さんと店長の配慮か。

『疲れが溜まってなったみたいだから、どこか悪いとかじゃないしもう平気だから』

「あー、ほっとした。こんなに休むなんてないからビックリした」

『ごめんね』


俺はもう大丈夫。
大丈夫だから。
それよりも、大丈夫?
あんな姿を見て、何も出来ずにそのまま。
言葉をかけることも、会うことも出来ず心配してた。
斉藤さんが言っていた言葉が気になるよ。

本当はどうしたの?
あの時、どうして黙り込んでしまったの?
心配だよ。
どうして斉藤さんは気づいていたの?


心の中で言葉があふれている。
でもそれを言うことが出来ない。
「もしかしたら」を想像すると怖くて聞けない。


いつまでも臆病な自分。


にほんブログ村 小説ブログへ
スポンサーサイト

| 「僕の一日」  | 14:03 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日 46

病院で点滴をしてもらって処方された薬を飲んで4日目の朝、
すっかり熱も下がり、身体のだるさもなくなっていた。

ソファーから起き上がり台所へ行くと、流し台の隅には会社の近くのあのお弁当屋の袋があった。

『すごいよなぁ・・・昨日、全然気づかなかった・・・』

昨日の夜、というか病院に行った日から毎日、
斉藤さんが夜の9時以降にアパートを訪ねてくれていた。

「放っておくと何も食べなさそうだからね」

そう言って買ってきてくれるお弁当を、一緒に食べていた。
「本当は作ればいいんだろうけど、時間がかかるから・・・ごめんね」と申し訳なさそうに言った。
これだけのことをしてくれているのに、謝ることなんか何一つない。
謝らなければならないのは俺のほう。

昨日の夜は台所を片付けることなく、お弁当を食べてすぐに休んだこともあり、
今日の朝の分も買って置いていたことには気づかなかった。
というより、気づかせないようにしていたんだろう。
あの人は。

お弁当をレンジに入れ、ソファーの上に置いたままの携帯を手にし電話をかける。


「おはよう。大丈夫そうかな?」


電話が来るのを待っていたかのような嬉しそうな声がした。
目が覚めるほどの艶のある声。

『おはようございます。大丈夫です。今日から出られます』

「そっか。店長はまだ出張から帰ってきてないから、連絡は俺だけで大丈夫。
 今日の早番は石川だから、あんまり気負いしなくて大丈夫だよ」

自分が休んでいたせいと店長の出張もあり、シフト通りの出勤ではなくなっていた。

『わかりました。ホントに色々ありがとうございます。
 あ、お弁当ありがとうございました』

「気にしないでいいよ。無理しないで調子悪くなったら連絡くれればいいよ。
 俺がすぐ行くから」

『ありがとうございます。じゃぁ行ってきます』

「はい、行ってらっしゃい」

携帯からわずかにライターの音がした。


ここ1週間で気づいたことがある。

斉藤さんは落ち着いたり、気を抜ける状況になると煙草を吸う。
イライラしたりすると吸いたくなると言うけれど、斉藤さんは違っていた。
休憩中であっても仕事のことがあれば、常に意識はそちらに向け、煙草をくわえることはない。
お店全体のことからスタッフの管理まで、ほぼ完璧にこなしている。
店長から絶大な信頼を得られるのは当然のことだった。

言葉遣いも状況によって少し変えている。

完全にスイッチがOFFになると、いつもの穏やかな口調ではなくなる。
わずかに冷めた口調になるのだ。
声音もいつもより低くく、言葉遣いも変わっていた。
携帯で話をしているとき「お前」と何度か呼ばれたことに気づいた。
そんなときはいつも煙草を口にしているのが、
その低い声の後ろから聞こえてくるライターの音で分った。

アパートのベランダで煙草を吸う姿は、とても軽そうでふわふわしていて、
それでも強い空気は相変わらずで、近くにいるとなぜか心が落ち着いた。

煙草の煙を吐き出したときのあの表情は仕事場で見ることはない。
きっとあれが本当に素の状態なんだろう。
ベランダから部屋に戻ると同時にその表情は消え、穏やかに優しく笑う。

自分のことをどれくらい使い分けているのか。
聞いてみようと何度も思ったが、本人を前にするとどうしても聞けなかった。


耳から離した携帯を見つめ、一呼吸おいた。


今日は仕事をふたつしなきゃならない。

意識の切り替えをしっかりと。

笑うこと、穏やかでいること。

客商売だということ。

忘れないで。

夜には違う自分を演じること。


レンジからお弁当を取り出し、ソファーへ座った。



にほんブログ村 小説ブログへ

| 「僕の一日」  | 23:48 │Comments2 | Trackbacks0編集

| main |

プロフィール

ハル

Author:ハル
  ↓ぽくっと↓

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
  ↑ぽちっと↑

このサイトに使用されている
画像、文章、その他を無断で掲載、転載、
複製することを禁じさせていただきます。

リンクフリーです

ブログ内検索

QRコード

QR

フリーエリア

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。