夏の一日 3

3

ほどなく電車が止まり、ガコンと音をたてドアが開いた。
細い腕に支えられながら、覚束ない足取りで電車から降りベンチへと向かう。

彼は「ゆっくりでいいですよ」と言葉をかけてくれながらベンチへ座らせ、
支えてくれていた手を静かに離した。
うだるような暑さの中、その手は気持ち良いぐらい冷たかった。
冷え性の人は真夏でも手先が冷たいものなんだろうか。

細く長い手足が、きれいな顔をさらに際立たせる。
蒸されるような車内にいて、汗もかかず平然な顔をしていた。
そのせいなのか肌の白さのせいかは分らないが、
彼の周囲だけ涼しい空気が流れているように感じられた。

支えてくれていた彼のその手につけている腕時計が印象的だった。
かなり幅の広いベルト。
珍しいバックル。
携帯を持つ右腕にはレザーブレスレット。

小物が似合う人なんだな。

Tシャツにジーンズというラフな格好なのにお洒落に見えるのは、
アクセサリーとその顔とスタイルのせいかもしれない。


「すみませんでした・・・・・・もうひとりでで大丈夫です」


メールを打つ彼に声をかける。

聞こえていないのか俺の言葉に返事はせず、
パチンと携帯を閉じて「ちょっと待ってて下さい」と言い、どこかに向かって行った。



彼の後ろ姿を見ながら額に手をあてる。

夏風邪だろうか。

頭痛に倦怠感。
メガネをはずして目をこすった。


夜中の雨が嘘のように晴れ上がった空。
殺人的な強さで照りつける太陽。
呑み込まれそうな人ごみ。
びっしょりと汗で濡れた服は重く、
身体を地面に這いつくばらせようとしているように思えた。


こんな地獄のような暑さの中を生きるためと働いて、
上司に罵倒され、頭を下げながら大人になるのか。

目の前を忙しそうに歩くスーツ姿の人たちを見て思う。

心が疲弊していくのは当然なのだろう。


それは学生も同じこと。


1分1秒、過ぎていく時間が、重い。


やわらかい風を感じて顔をあげると「どうぞ」という声と同時に、
ペットボトルが差し出された。

メガネをかけ直すと、額にわずかに汗をにじませた彼がポカリを手に爽やかに笑っていた。


「少しは飲んだ方がいいと思います。脱水症状起こしますから」

「ありがとうございます」


彼からペットボトルを受け取り、ひと口だけ口に含ませた。
隣に立つ姿を横目で見て、汗をかかない人じゃないんだなと思った。
涼しそうな顔をして立っているから気づきにくいかもしれないけど。


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| 「僕の一日」  | 01:15 │Comments0 | Trackbacks0編集

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