夏の一日 2

2

太陽が昇りジリジリと温度が上がりはじめる。
今日も猛暑日になるんだろう。
せみの声が耳につく。

シャワーを浴び、インスタントコーヒーを一杯だけ飲んで部屋を出る。



いつもの時間に、いつもの改札を通り、いつもの満員電車を待つ。


停車した車内にわれ先にと無理矢理入るサラリーマンたち。

すし詰め状態の車内。

自分の汗だけでも嫌なのに、そこに他人の肌が触れる。
べったりとした生ぬるい感触。



気持ち悪い。



暑さと苛立ち。


人の熱と感情。



みんな思っていることは同じで、みんなが疲れていた。


けれど現実は変わることなく。


それに耐える日々。




居心地の悪い車内が、みんなの感情に拍車をかけていた。

自分もそんな一人だった。


電車に乗り合わせる見知らぬ人たちにすら理由も無い憎しみを覚えて、
それを撒き散らしてはそんな自分に辟易した。



ああ。

全部なくなってしまえばいいのに。

疲れたんだ。


こんな毎日。


もう、たくさんだ。


ラクになりたい。



ラクに・・・・・・。



ガクンと足下が崩れた。
電車が急ブレーキをかけたのかと思った。
同時に視界がぐにゃりと曲がり、身体の力が抜けた。



「大丈夫ですか?」


揺れ続ける密閉した車内で、やわらかい空気を感じた。

一気に周辺の空気の濁りが消えた気がした。


消された気がした。



「あの、大丈夫ですか?」


また同じ声。


「あの・・・」


白く細い腕が倒れかけた身体を支えてくれていることに気づく。
我にかえって顔をあげると、心配そうにこちらを見つめる透き通った双眸があった。

鼻筋の通ったきれいな顔。
さっぱりと整えられた髪。
暑さを感じさせない白い肌。

こんなきれいな男の人、初めて見た気がする。


自分と同じくらいの歳だろうか。

「大丈夫です。すみません」

片手でメガネを掛け直す。
大丈夫と言いながら支えてくれている手を離せないでいる。

「顔色悪いですよ。次の駅で降りた方が・・・・・・」

「はい・・・・・・ありがとうございます」

「いえ、気にしないで下さい」


彼は優しく笑った。



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| 「僕の一日」  | 17:33 │Comments2 | Trackbacks0編集

夏の一日 1

の一日」

1

・・・ちゃん

ぴちゃん。ぴちゃん。


雨音がする。


わずかに開いたまぶたの重さに苛立ちを感じ、眉間にシワをよせた。

倒れるようにうつぶせのまま眠り続けていたらしく、
身体を起こすと首と肩に鈍い痛みが走った。


いつの間に眠っていたんだろう。


開けっ放しの窓から、少しだけ雨が吹き込んでいた。
真っ暗な外からは虫の鳴き声が聞こえてくる。

寝静まったままの隣近所の迷惑にならない様、静かに窓を閉めた。
昨日の夜、日付が変わる直前に帰ってきて部屋の空気を入れ換えようと窓をあけたあと、
そのまま眠ったことを思い出した。

じっとりと汗を吸ったシャツが身体にまとわりついて気持ちが悪い。
雨のせいでいつもよりさらに湿度が上がっていて、体感温度は30度を超えているような気がする。

額ににじむ汗を手の甲でぬぐいながら、これから始まる今日の重さを受け止め、
ベッドの脇に置いてあったメガネに手を伸ばす。


ぼやけていた視界がクリアになり、
まったく見えなかった掛け時計の針を確認することが出来た。

3時45分


「またか・・・」


一言呟いたあと、深いため息をついた。


「今年は例年よりも雨の日が多い見込みです」と、
最悪な情報を爽やかな笑顔で伝えてくれるお天気キャスターを見て、
筋違いと分ってはいるが軽い怒りを覚えたのは1ヶ月前。
梅雨が過ぎて傘とは縁遠くなるはずの7月に入って、
何度目の雨なのだろうと舌打ちしたくなる気持ちを抑えたのは確か3日前。

雨が降ると頭痛に悩まされるようになって6年。
そのせいでうまく眠れなくなった。
おかげで梅雨の季節から夏にかけては慢性的な寝不足に陥る。

もっとも、雨のせいで頭が痛くなっているのか、
雨を見ることで痛くなっているのか、自分でもよく分らないけれど。


メガネと一緒に置いてあった煙草をくわえ、ライターで火をつけようとした、そのとき。





目の前が紅く染まった。

紅蓮の炎。

逃げ場のない火の海。

全身が溶けてしまいそう。




遠のきそうな意識の中で、必死に俺の名前を呼ぶ声。

あの声は。


そうだ――。





「っ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


我に返り慌ててライターを投げ捨てる。



消せない過去と、許されない罪。



「ごめんね。父さん、母さん」



投げ捨てたライターを拾い、煙草に火をつけた。



「はぁ・・・・・・」


また溜め息。

気がつけばしょっちゅうため息をついている。
良くないことだとわかっているけれど。


いつまで・・・・・・。

いつまでこんな毎日を送るんだろう。


うんざりしていた。


大学からは電車で5駅の家賃4万のアパート。
学生がひとり暮らしするには十分な広さと設備。
大学へと入れてくれた叔父さんと叔母さんに感謝している。



それでも、こんな毎日は、もう、いらないんだ。

そう思ってもこの毎日を変える努力をするわけでもなく・・・・・・。
区切りをつけるほどの勇気も行動力も自分にはない。



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| 「僕の一日」  | 01:55 │Comments4 | Trackbacks0編集

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