僕の一日  39

「ここってベランダあるよね?一本吸っていい?」

『はい、いいですよ。サンダルもあるんで』

「じゃあ失礼」

お弁当を食べ終わり、煙草をくわえてベランダへ出て行く後ろ姿に目をやる。
あんな風に自分のことも周りのことも、大きく捉えられる人が羨ましい。

『こんなかっこいい人、そうはいないよなぁ・・・』

ふぅ、とため息をついた。
余裕のある人間になりたいと思う。

「なに?」

携帯灰皿を手に部屋に戻ってくる。

『大人だなぁ、と』

「そうでもないよ。結構、この顔でごまかしてるよ」

『そういうところが真似できないんですよ』

「嫌味にとらない君も十分大人です」


笑いながら「座ってて」と言い、空になったお弁当の容器を手に台所へ向かう。
このあたり隙がない。

「そうだ。熱ってどのくらい?風邪薬飲んでるみたいだけど、
 あんまりそれ効果期待できないし、そもそも風邪かどうかもあやしいし」

『え?効かないんですかコレ』

「市販のはあんまりね。風邪そのものを治す薬って無いよ。
 風邪は大半がウイルス感染だから抗生物質も効かないし。
 あくまで本人の免疫次第だから」

『抗生物質?』

頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。

「うーんとね・・・ざっくり言うと、みんな市販の風邪薬飲んでるけど、あれはCMに騙されてるに近いと思う」

『そうなんですか?』

「うん。そうなんだね。まぁ・・・咳や熱がでたからって風邪薬を飲むのは間違いだと思うよ」

『詳しいですね』

「そうでもないよ。たぶんその熱も風邪じゃないと思う。
 市販の薬飲むなら病院に行ってちゃんと診てもらった方がいいよ」


沸かしなおしたやかんを持って部屋へ戻り、急須にお湯を注ぎながら言う。


「顔色もあんまりよくないし、1週間ぐらいは休んだほうがいいと、俺は思っているんだけどね」

『そんなに休めませんよ』

「でもねー。無理してひっくり返るよりいいと思うけどね」

飲み会のことを思い出し何も言えなくなってる姿を見て「ね?」と言って台所に戻り、

「石川サンの厚意のためにも、このまま休むことを勧めるよ」

と言って、コンロの前で立ち止まり、初めて会ったときに見惚れた、
あの滑らかな動きで鍋を指差した。


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| 「僕の一日」  | 23:29 │Comments4 | Trackbacks0編集

僕の一日  38

斉藤さんが湯呑茶碗のお湯を急須に入れふたをし、「さて」と口にしてから台所へ向かった。
レンジを開けてお弁当を取り出し、もうひとつを入れてボタンを押す。
温め終わったお弁当と割り箸2膳をテーブルに置き、またレンジの前に戻り、
音が鳴ると同時にドアを開けて取り出し、嬉しそうな顔で戻ってくる。

「ここのお弁当おいしいんだよね。結構お世話になってるんだよ」

パッケージには見慣れたマーク。
仕事先の店が入っているビルを右手に曲がってすぐのところにある、老舗のお弁当屋。
値段はコンビニ弁当よりはちょっと高いけれど、とにかくおいしい。
社員食堂に来ないで店のバックルームでお昼の休憩をとるときに、
斉藤さんがよく利用しているのはスタッフみんなが知っている。

急須に入ったお茶をふたつの湯呑に入れ、「はい」と差し出してきた。

『斉藤さんて一人暮らしですよね?』

「うん。そうだよ」

『料理はしないんですか?』

「昔はけっこうしていたけど、最近さぼりがちかな」


料理が出来る男。
モテる要素がありすぎる。


「なによりここのお弁当が好きなんだよ。いただきます」

割り箸を割って野菜スープにを呑んで「お、いけるね」と言い、お弁当を食べ始めた。

『はっ!』

「え?」

『すみません!』


またやらかしてしまっている。


『すみません。直接床に座らせて。ソファーに座ってください』


自分だけソファーに座って先輩をそのまま正座させている。
なんでもっと気遣いができないんだ自分は。

「いいの?じゃぁ失礼するよ。それよりそんなに気を遣わないで」

隣に座りながら笑った。

「おまけに俺と話すとき少し構えてて、“あっ”とか“えっ”とか、ビックリした感じの言葉が多いよね。なんで?」

『それは、緊張するっていうか、なんていうか・・・』

「緊張?なんで」

『なんで…だろ。…芸能人みたいだから?』


正直に答えると目を丸くしてこっちを見た。


「なにそれ。俺が芸能人?」

驚いた声で聞き返してきた。

『あー…顔もかっこいいけど、仕草とか立ち振る舞いとか…あとオーラ?』

「芸能人オーラ?そんなのないよ、俺一般人。それに君がかっこいいとか言うと、
 嘘っぽいよ。そんなきれいに整った顔の人に言われてもねぇ」

その言葉に即座に反論する。

『きれいじゃないです!そんなこと…』

「…人に好かれるのが苦手?」


声のトーンを少し落として聞いてきた。
この人は彼女と似ていて、どこか見透かしてくる。


『みんなが善意で言ってるわけじゃないだろうし、別に俺なんて…』

「こんなのがいいなんて、ありえない。とか?」

視線をテーブルに落とし、懐かしむように穏やかに言った。

「そんな風に思っていた頃もあったよ、俺も。
 見た目で色々言われることにうんざりしていた。
 でもまぁ、整った顔に産んでもらったんだし、変えようもないし、
 いっそのこと受け入れてこの顔を利用しようと思ったら、楽になったよ。俺はね」

『……』

確かにこの顔を使ってお金を稼いでるのは事実。
否定するも受け入れるも自分次第。

「羨ましがられることも慣れたかな」

『慣れるもんですか?』

「うん。そのうちね」


目を細め、うなずきながら笑った顔は、やぱり誰もが羨む顔。
精神的に大人な分、それが顔にも出ている。
自分もこんな風になれるだろうか。


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| 「僕の一日」  | 16:50 │Comments2 | Trackbacks0編集

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