僕の一日  37

バタバタと部屋に戻って電気をつけ、テーブルの上に置いていた病院の薬をあわてて棚にしまい、毛布をたたんだ。
空になっているお弁当の容器とマグカップに湯呑茶碗、今もらったお弁当を台所へ持っていった。
玄関からはドアを静かに閉めた音の後に「おじゃましまーす」と小さな声がしたが、部屋へ入ってくる気配がない。

『斉藤さん?』

見てみると靴を履いたまま遠くを見るような目で部屋を見ている斉藤さんの姿があった。

「ん?……いや、あんまりモノがないなぁって。片付いてるし」

『今がきれいなだけで、いつもは汚いですよ。座ってください。いまお茶入れるんで』

「ははは、主婦みたいなことを。その顔に似合わないなぁ」

笑いながらカバンを床に置き、脱いだ靴を揃え台所へ入ってきた。

「お茶入れぐらい俺がやるよ。病人は寝てなさい」

『でも・・・』

「ほら。先輩の言うことを聞きなさい」


ぽんぽんと背中を押されながら、ソファーに座らされる。
あの笑顔にはさからえない。
俺が座ったのを確認すると小さく「うんうん」とうなずき、満足した顔で台所へ戻った。


「ここにあるの、適当に使うよ。いいかな」

『はい、大丈夫です』


鍋とやかん両方のコンロのスイッチを入れ、慣れた手つきで茶葉を急須に入れる。

家でお茶飲んでるのかな。

それにしても、何をやらせてもやわらかくて滑らかできれいな動き。
仕事姿しか見てない分、私生活が垣間見える姿が新鮮だ。


「どうかした?そんなに見つめられても、俺はそっちの人じゃないよ」

『違います!そんなんじゃなくて!』

「ははは、分かってるよ。ごめんごめん」


いつもの調子で茶化される。
あぁ、結構頭回っているかも。


「はいはい、先に野菜スープね。俺も頂くよ」

両手にマグカップと汁椀を持って来た。

「お弁当いま食べられそうかな?出来れば食べたほうがいいんだけど」

『食べられます』

「じゃあ、温めるから」


そう言って台所に戻ると、お弁当が入った袋に手を伸ばす。

「もしかしたらと思って、ふたつ買ってきてよかった」

レンジにお弁当をひとつ入れスイッチ押し、沸騰したやかんのお湯を湯呑茶碗に注ぐ。
お盆に急須をのせて、湯飲みセット一式を持ってきた。

「しかし、男の一人暮らしでキッチリお盆にお茶があるのがスゴイね」

『昔から好きで』

「いいことだね。俺も好きだよ」

眼鏡の奥から優しい目が覗いた。


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| 「僕の一日」  | 12:29 │Comments2 | Trackbacks0編集

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