僕の一日  33


「あ、あれ?」

ドアを開けてすぐにタイムカードのところに目をやる。
さっきの返品伝票を探してるのだろうか。

「石川、わざわざ戻ってきたか。伝票ならもうFAXしておいたから大丈夫。
 ありがとう。助かったよ」

店長が声をかけるとホッした顔で笑った。

「良かった。今日しないと受け付けてもらえないから」

「そうだ。いま相沢を呼んだとこなんだけど、休憩早めに上がれるか?
 有利を紹介したあとそのまま休憩にでてもらうから」

「大丈夫です。すぐに出られます」

そういうと彼女はカバンをダンボールの上に置いて、そのまま店に出て行った。
ドアを閉めようとしていたところに、別の女性が現れる。

スラリと伸びた長い手足。
身長も高い。
ショートヘアがよく似合っている。

「相沢。お疲れ様。紹介するよ」

「今日から勤務のユリカズヤくん?」

ドアを閉めながら笑った。

「斉藤に聞いたのか?」

「はい。きれいな人が来たって」

「だろ?なのに斉藤に見惚れてるあたりがカワイイんだよ」

『え?!』


話がどこかおかしい気がする。
カワイイって・・・。

「初めまして。相沢遥です」

『有利和哉です。よろしくお願いします』

「ホントにきれいな顔してるね」

『え・・・っと、そんなことは・・・』

いつも思う。
こんなとき何て返したらいいんだろう。
あの人なら上手く切り抜けそうだ。
携帯を持つ姿すら絵になる人。

「美人さんとあだ名をつけるよ」

「コラ。イジるなよ」

「ところでミサの休憩って早くないですか?」

「あぁ、あとでプラスで休憩いれるよ。お前はそのまま休憩入ってくれ」

「分かりました」


そう言って、ダンボールを蹴ってなんとかロッカーの扉を少しだけ開けると、
その間から無理矢理カバンを引っ張り出して「じゃぁ、行ってきます」と元気良く出て行った。

ミサ?
彼女のことかな。

『元気な人ですね』

「それが相沢のいい所だよ。あいつが2番目に長いんだ」

『じゃあ一番長いのは?』

「斉藤だよ」


あの人が。
年も俺よりけっこう上だろう。

サイトウアオイ。
アイザワハルカ。
イシカワ。

イシカワ、ミサ?

下の名前を聞いていなかった。
彼女の名前はなんていうんだろう。


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| 「僕の一日」  | 17:23 │Comments4 | Trackbacks0編集

僕の一日  32

「うわっ!駄目だ見つからないっ。誰か知らないのか?」

焦りながら必死に書類を探す店長。
かれこれ10分は経った気がする。
さっき2時締めと言っていた気がするけど、大丈夫だろうか?
もう1時30分過ぎてるけど。

「店長がハンコ押してから、どこにしまったかなんて誰が知ってるっていうんですか」

「だよなー、あぁ、どこだよー。男ってこういうのダメだよね」

「いや、男が全員片付け出来ない訳じゃなくて、店長がただ片付けられない人なだけです」

「…そうかな」

「そうです。…石川に聞いてみますか?」

「あ、いいね。知ってるかも」


そう提案し、『葵』という名前がとても似合う『斉藤』さんがポケットから携帯電話を取り出した。
電話をかける仕草まで絵になる。
この人、モデルでもしているんだろうか?

「あ、石川?休憩中に悪いね」

低い声で携帯の向こうに話しかける。
落ち着いたはずの心臓が、呼んだ名前を聞いてまた速くなる。

「今日締めの返品伝票しらない?店長もわからなくてさ」

返品伝票?
このダンボールの山は返品商品か。

「わかった。うん・・・あそこね。ありがとう。じゃあ」

「知ってるって?」

通話を切るのと同時に店長が言った。

「はい。こんなことになるだろうと、昨日のうちにこの山の中から探しておいたみたいです」

「さすが石川。デキるね」

「いや・・・店長が片付けられないだけだと思いますよ。ねぇ・・・和哉くん」

『え?』

突然呼ばれて少し声が上ずった。
ビックリする。

「待たせてごめんね。すぐ後ろにあるタイムカードの隣に、封筒ない?黄色い」

そう言われて振り返ると、そこにはタイムカードが並んでいた。
全部で6枚。
そこに混ざって黄色い封筒があった。
取ってみると大きく赤ペンで“要返品”と書いてある。

『あります。返品て書いてあります』

「よし・・・これで大丈夫だ。ごめん、それくれる?」

『あ、はい』

ダンボールの山をよけながら机越しに封筒を手渡した。

「ありがとう」

細めた目が優しい。
強い空気だけど心地いい。

「その返品終わったら店出られる?相沢呼んできて欲しいんだけど」

机の上の書類を整えながら店長が言った。

「わかりました」

柔らかく返事をしながら机の横にある複合機のボタンを押す。
なんというか、動作ひとつひとつが滑らかだ。

「じゃぁ、俺フロアに戻りますよ」

黄色い封筒に伝票を戻して店長に渡すと、店へ戻って行った。
ドアの向こうを見つめてしまっていると、それに気づいた店長が笑った。

「いや、そんなに見つめなくても。確かにかっこいいけどさ」

『モデルみたいですね。ビックリした』

「学生の頃、少しやってたらしいよ」

『やっぱり。雰囲気が違うっていうか』

「うん。顔もあるけど、あの雰囲気にみんなやられるんだよね」

業務とはまったく関係ないことで盛り上がっているところにドアが開いた。


彼女だ。


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| 「僕の一日」  | 11:21 │Comments2 | Trackbacks0編集

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