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僕の一日 31

心臓がうるさくなっているのに気づいた。
初出社の日に、なにをしているんだ自分は。
バックヤードを歩きながら目にかかっている長い前髪を書き上げて、小さく息をした。

手作りお弁当なんて、小学生以来食べていない。
高校のときはいつもコンビニでパンかおにぎりを買っていた。

そうだ。
お弁当が昔を思い出させただけだ。

懐かしさが目の前にあっただけのこと。


「おい、大丈夫か?」

『え?あ、はい』

店長の言葉で我に返る。

「・・・少し顔色わるいぞ。調子悪いのか?」

『いえ、大丈夫です』

「着いたぞ。ここからフロアに出られる」

この人の声は、あったかい感じがする。
家庭的な雰囲気があるからかもしれない。
きっといいお父さんになるんだろう。

『はい』

 
バックヤードの扉を開くと、すぐ目の前に自分が勤める店があった。

「うちの店はバックヤードに近くて楽なんだよね」

そう言いながら店長が店の中へ入って行く。
客に頭を下げながら歩く店長の後ろに付いて、一緒にバックルームに入った。
6畳ぐらいの広さだろうか。
部屋の壁は小さいロッカーと、大量の書類と段ボール箱が詰まれた棚で隠れてしまっていた。
すごい圧迫感。
ダンボールは床にも山積みになっていて、机の上にも書類の山ができている。
その山の中をゴソゴソとあさる人影。

「お、なんだどうした」

「あ、店長。あの伝票の・・・あれ?」

俺の姿に気づいて、その人が手を止めた。

背は俺より高いだろうか。
眼鏡から覗く目は、少し茶色がかった深い色。
外国の血が混ざっている感じがする。
艶のある目と低く落ち着きのある声にバランスのとれた顔。
目が離せない。

「あー、募集してたバイトの人?」

「そう。“有利”って書いて“ゆり”って読むから、間違えないでね」

『初めまして。よろしくお願いします』

見惚れてしまっているのに気づいて、あわてて頭を下げる。
なんだろう、この店は。
スタッフの空気が強いというか・・・。
店長はまあ、普通なんだけど。

「え?苗字がユリ?珍しいな。下の名前は?」

『和哉です』

「おぉ・・・下の名前はいたって普通。初めまして、斉藤葵といいます。
 俺は名前だけだと女の子と間違われるけど」

「どの面下げて女だよ。ガッツリ男だろ」

「そうなんですよねえ・・・」

「で、何の伝票探してた?急ぎか?」

「あぁ・・・えーと。2時締めでFAXしなきゃいけない伝票ってどこですかね?」

「アレか、ごめんちょっと待ってて」

店長からさっき書いた雇用契約書を渡される。
なにかブツブツ言いながら店長も机の上をあさり始めた。
落ち着かないと思いながらドアの前で待った。
もっと隅の方によけようと思ったが、部屋がダンボールで埋まっていて身動きが取れない。
とにかく、狭い。

「店長・・・どこに置いたか覚えてないんですか?」

「確か机の上に置いたんだけど」

そんな会話を聞きながら、紹介されたばかりの人を見る。

そんなに長くないのに髪を結んでいる。
束ねた先からほつれた短い髪がなぜか色っぽい。


モテるだろう、この人。

このスタッフ目当てで来るお客さんがいてもおかしくない。


そんなことを考えている自分に気づいて、頭を振る。
自分はそんな人たちからお金をもらってるくせに。
ため息が出る。
口が裂けてもそんなことしてると言えない。

誰にも言えない秘密が増えていく。

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| 「僕の一日」  | 20:47 │Comments2 | Trackbacks0編集

僕の一日  30

彼女に初めて会ったのはバイトが決まって初めて出社した日の昼。
給料絡みの説明も含めて、店長と社員食堂で話をしていたときだった。
「ご飯食べながらでごめんね」と言って、日替わり定食を手に席についた店長の向かい側に座った。
簡単な勤怠の説明を聞き、雇用契約書などいろいろ記入していた。
その間にもくもくとご飯を食べる店長の隣に、足を止めた人がいた。
それに気づいて顔を見ると、きょとんとした顔で女の人がこちらを見ていた。
隣に人がいることに気づかず、ひたすらご飯を食べる店長を見て、
「あの・・・」と小声で話しかけると、「なに?不明なとこあった?」ととぼけた顔をして書類をのぞいてきた。
そのやり取りをみて、女の人が何か納得したような顔でうなずいた。

「はじめまして。新しく入った方ですよね。私も同じ店のスタッフです。えーと・・・」

お弁当を片手に挨拶をしてから、俺の首にさげてあるネームを見て少し困った顔をした。
まぁ、いつものことなんだけど、読めないなんて。
間違いなく呼んでくれた人はいまのところいない。

『はじめまして。ゆり、といいます』

椅子から立ち上がって頭を下げると思わぬ言葉がかけられた。

「へぇ、珍しい苗字。いいなぁ」

『え?』

顔をあげると嬉しそうに笑った彼女がいた。

「そうだよなー。石川なんてどこでもいるし、誰も読み間違えないよな」

そのやりとりを見ていた店長がわざとらしく言った。

「放っておいてください・・・あ、石川といいます。よろしくお願いします」

ペコッと頭を下げた姿を見て、また自分も頭を下げた。

「石川、もういいから座れ。俺が落ち着かないだろ」

「いいんですか?大事な話じゃ・・・」

「いいの、お前と同じアルバイト扱いだから、給料も似たようなものだし」

「じゃぁ、となり失礼しますね」

そう言って店長の隣に座ると、お弁当を広げた。
いつのまにか食べ終えていた店長が、コップの水を一気飲みほして、
「ふぅ」と一息つくと、書き終えた書類を確認し始めた。

「石川は1年先輩。同じアルバイト扱いなんだけど、
 業務内容は全部分かってるし、社員いないときは彼女に聞いてもらえれば大丈夫だから」

書類に視線を落としながら、店長が言った。

『はい、わかりました』

店長の隣に目をやると、きれいにお弁当を食べる姿があった。
いいところで育ったか、そういったところに顔をだす機会がある人なのか、
箸の持ち方から、姿勢、食べ方まで、全部が完璧に見えた。
自分で作ったと思われるお弁当のおかずがとてもおいしそうだ。
きれいに詰めてある。

なんだかきれい尽くしだ、と思いながら、
ぼぉーっとその姿を見ていると、視線に気づいたのか、ふと顔をあげた。
慌てて視線をそらしたが、あまりにわざとらしかった。

「え?何?」

彼女が戸惑った声で言った。

「なに?どうした?」

書類を持つ手はそのまま、店長が彼女に声をかける。

「いえ、なんでもないです」

そう言って、またお弁当を食べ始めた彼女を見て、「なんだ?」と呟いてから、
書類を整えてファイルにしまった。

「書類はこれで全部。不備はないから大丈夫。ありがとう」

『いえ、ありがとうございます』

「じゃあ、お店に行こうか。今日は他に2人のスタッフが出社してるから紹介するよ」

トレイを持って立ち上がった店長を見て、慌てて席を立つ。
顔をあげた彼女に一礼して店長の後ろを歩いて社員食堂をあとにした。


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| 「僕の一日」  | 19:26 │Comments4 | Trackbacks0編集

僕の一日  29

誰もいない部屋の中でいつものようにソファーの上に横になる。
彼女がいなくなってしまった寂しさに押し負けてしまいそうになる。
ひとりでいることは平気だったのに、彼女に出会って寂しいと思うようになってしまった。
彼女に会わなければこんな思いをすることもなかったのに。

そう。
寂しいんだ。

中学生になった頃には、すでに感覚がおかしくなっていたかもしれない。
誰かに背を向けられても胸は痛まなかったし、
好意を寄せられてもそれを嬉しいとも思わなかった。
友達は「お前はみんなに同じように優しい」と言う。
「だから女は勘違いすんだよ」と、少し皮肉った言葉も付け加えて。
平等ではなく、どうでも良かったんだと思う。
自分の中で特別と思う人がいなかった。
ただそれだけの話。
きっと冷めた目をした子どもだった。

それが今になって寂しさを感じるようになった。
人として当たり前に。


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| 「僕の一日」  | 13:20 │Comments4 | Trackbacks0編集

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