4年

微かにギターの音がする
いまの僕は、もうその音を鳴らすことができない。


あの頃、僕は自分を信じて、自分を持って生きていたと思う。
隣で笑ってくれる君を空気のように感じ、それを当たり前と思っていた。
いつも僕の味方でいてくれた。
現実に目を閉じ、背を向けたときも、隣にいてくれたのは君だった。

あの頃は、これから先もずっと、君が隣にいてくれると信じて疑わなかった。
僕らの関係も僕が手にしているものも変わることはない。
そう思っていた。


けれど僕が手にしているものでは、君を守ることも、
自分を守ることすらもできなかった。


捨てきれない想いとプライド。
自分にはこれしかないとしがみついて、他のものへ目を向けることもせず、
ただ自分だけを見て、自分の想いだけを貫こうとしていた。

その姿さえ、君にはかっこよく見えてるんじゃないかと思った。


あの頃の君は、よく笑っていたし、すごく元気に見えた。
それは僕の隣にいるから、自然と笑い、元気なんだと、僕は勝手に思っていた。
見えないところで泣いている君に気付きもせずに。

僕の隣にいるから笑っていたんじゃない。
僕の隣にいるから元気だったんじゃない。


僕のために、必死にその優しさをくれていたんだ。


僕が手にしているもので君を守れていたなら、
君はそんなに笑ったり、元気な姿ばかりをみせてはいなかったよね。
正直に、泣いたり、愚痴をこぼしたり、わがままを言っていただろう。


僕が君を追い詰めたんだ。



「約束を守れなくてごめんね」



君は泣いて謝った。

どうして君が謝らなければならなかったのか。
泣かなければいけなかったのか。


なにを謝っているのか。

僕にはわからなかった。

いまではその泣き顔さえ、うまく思い出せない。



突然、君を失って、
すべての世界が灰色になった僕の手に唯一残っていたものは、
音の鳴らないギター。

淀んだ世界の中で、それを弾くことは、もうできない。



いまの僕にできることは、どこにいるかわからない君へ、
どうか心から笑ってと願うことぐらい。


幸せになって
笑っていて
どうか


あの頃、僕にくれた幸せのぶんまで。



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| それぞれの一日 | 06:08 │Comments4 | Trackbacks0編集

レンタルビデオ

仕事を辞めて、家にこもるようになって、
いつのまにか昼夜逆転してしまっていた。

レンタルショップで2本の映画を借りた。
どちらもタイトルだけで借りた。
朝方4時頃に見始める。
見終わる頃には外は明るい。

ビデオを取り出してケースにしまう。

そして部屋のカーテンをあける。

ここ数日の習慣。

今日は風が強いようで、外を眺めたら、
人の家の庭にある木が大きく揺れていた。

マンションからの眺めは別によくない。
目の前に見えるのもまたマンションでしかなく。
あとは一軒家が見えるだけ。

道路に目をやると、ペットボトルがコロコロと転がっていた。
いい勢いだ。

誰が捨てたんだろう。


漠然と外を眺めていたら、息苦しくなってきた。

呼吸をするのが苦しい。

胸が重い。


時計を見ると、みんなが動き出すには少し早い時間だった。
そんな時間に動くのが好きだ。

着替えて外へでる。


太陽が今日の始まりを教えている。


手には借りていたビデオテープ。

歩いて一番近いレンタルショップ。
扱っている本数が少ないのが難点ではあるが、
近いというのにはかえられない。
わざわざ遠くまでいくのは面倒くさい。
返しに行くのがたいへんだ。

そんな事を考えていると、
すぐに店についてしまう。

店はもちろん閉まっていて、カウンターに返すわけじゃない。

世の中、便利なものだ。
ビデオの返却ポストなどある。

あと4日も返却期間があるというのに、
何のためらいもなくポストへ突っ込んだ。

ゴトンという音がしてた。

あぁ。返却したんだなぁと思う。


朝の空気を吸いながら、ゆったりと歩く。
傍にあるパン屋はもう電気がついていた。

パン屋の朝は早い。

おいしそうな匂いを感じながらマンションへと帰る。


そのまま起きていればいいものを、
また布団へともぐりこむ。

こんなことを繰り返しているから、昼夜逆転してしまうのだ。
分っているけど、何故かやめられない。


昼が嫌いな訳じゃない。
ただ、少し、音と色が多すぎて疲れる。

暗闇の方が安心する。


けれど乱れた時間を直さないといけない。

身体が警告している。
通常に生活しろと。


通常とはなんだろうか。


当たり前に生きるとはなんだろうか。


少しばかり当たり前に生きることが出来ないでいる自分は、
はみ出し者なのであろうか。


いや、そうではない。
そう思い込む必要もない。
きっと、考えすぎでしかない。


そのうち、この胸の重みもとれるだろう。


そうして、みんなが動き出す頃、
私は夢の中へともぐりこむ。



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| それぞれの一日 | 14:32 │Comments2 | Trackbacks0編集

君の声




ねえ 聞いて

私ね 好きな音だけを 聴くことが出来るの

だから

だから その声で呼んで

私の耳は あなたを見つけるから








「ねえ 聴いたことある? 空の音」

彼女は言った


『空の音?』


怪訝そうに彼は聞いた


「そう この空から音が聴こえるの」


そう言って彼女は空を見上げた

やっと暑さが和らぎだした
10月の夕暮れ

学校の帰り道

無機質な建物が並ぶ街の中



僕はまだ


彼女の恋人だった



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| それぞれの一日 | 23:20 │Comments4 | Trackbacks0編集

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