本と放課後

「人は自分の意志で死ぬことができるんだって」


そう言ったのは
ランドセルを背負った男の子

誰もいない 
田園が広がる田舎道
夕暮れを背に歩く影がふたつ


『本当に?』


もう一つの影が聞く
少し大人しい感じの空気をまとう 
かわいい声


「家にある本に載ってた」


男の子は呟く


『それで その本を読んで どう思ったの?』


女の子はランドセルの他に 白い布の袋を持っていた
その身長には不釣合いな大きさで すこし汚れた袋
その袋に消えかかった文字で “5-2” と書かれていた






金曜日の放課後 
ふたりは誰もいない音楽室で本を読んで過ごしていた


図書室は担当の先生がいないと
すぐに閉められてしまう


図書室と同じ 3階の一番奥にある音楽室
ここも図書室同様に 授業以外は鍵がかかっている


ただし音楽室とつながっている楽器置き場だけ 
内側から鍵をかけるようになっている


授業が終わってすぐ 先生の目をぬすんで
楽器置き場へ急ぐ


こっそりと鍵を開けておく


放課後 手には何冊かの本を持って
楽器置き場から 広い音楽室へ



一番後ろの窓際の席で
ふたりはいつも本を読んで
時をやり過ごしていた



長い時間を


来週まで また さよなら だから

ぎりぎりの時間まで 一緒に


自分たちには まだ先の

遠い遠い 難しいこと

想像もつかない未来を読んで

少しでも いまを知ろうと





「今週 給食当番だったの?」

『うん』

「そっか」


女の子の本を持つ手に 少しだけ
力が入った


『洗い物 増えちゃった』


ちょっと笑いながら言った


「お母さん まだ帰ってこないの?」

『・・・・うん』

「僕のお父さんも ずっと帰ってきてないよ」

『・・・・うん』


辛そうにうなずいた女の子の手を
男の子は静かに握った

女の子も握り返した


そうして補い合っていた






夕暮れで 長く伸びた影は
少しずつ動いていた

「自分の意志で死ねるなら
 何で 生きることが出来ないのかって 思った」


強く 強く 拳を握り締め
どうしようもない怒りをこらえていた


『・・・・・』


女の子は何も答えられなかった


その代わり 強く握られた拳を
小さな手で といてあげようとした


それに気づいた男の子は
ゆっくりと拳を開いて
女の子の手を握った


ふたりでいれば大丈夫だと思えた


だからいつも夕暮れまで
ふたり 一緒にいた



満たされない感情を

どうしようもない現実を

止まることの無い痛みを


何も言わなくても
互いに 想い合うことが出来た


二人でいれば 何も怖くはなかった


そうして 二人 手を繋いで生きていこうとしていた




にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ 人気副業ランキング在宅・独立支援
スポンサーサイト

| 「本と放課後」 09.1.22 完 | 19:46 │Comments7 | Trackbacks0編集

| main |

プロフィール

ハル

Author:ハル
  ↓ぽくっと↓

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
  ↑ぽちっと↑

このサイトに使用されている
画像、文章、その他を無断で掲載、転載、
複製することを禁じさせていただきます。

リンクフリーです

ブログ内検索

QRコード

QR

フリーエリア