『僕の一日』 


                    た
                    だ
 
                    わ
                    か
                    っ
                    か
                    く
                    れ
                    る
                    だ
                    け
                    で
                    よ
                    か
                    っ
                    た
                    は
                    ず
                    な
                    の
                    に

 

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春の一日
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夏の一日
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秋の一日
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冬の一日
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| 「僕の一日」  | 13:57 │Comments6 | Trackbacks1編集

僕の一日 116

“クリスマスまでは忙しいんじゃないかと思って”

そんなことを考えてくれる人が心底ありがたいと思う程、
雑貨屋もホストクラブも、とにかく忙しかった。

雑貨屋といえばオープンと同時にお客が来て、
多くがプレゼントでラッピング希望。
さらには冬休みに入った学生がオープン直後から来るようになり、
店内はいつもの平日が嘘みたいに人で溢れていた。
休憩は全員バックルームでとり、いつでも入れる様にして、
学生バイトの奥村くんと志季さんもフルタイムで出勤。
商売と思えば嬉しいことだけれど、
時給がいつもと同じあることを考えると複雑な気持ちになった。

ホストクラブはクリスマスイベントが行われることもあって、
いつもよりたくさんのお客が入り、店の中は大賑わい。
おかげでこっちは閉店時にはぐったり。
いや、ここは感謝すべきところだ。

イブの24日は雑貨屋が早番で終わり次第ホストクラブ。
日付が変わって25日の朝一の電車で帰ってきて、
ほとんど寝ないで雑貨屋早番、その後ホスト……という具合。
いつもそうして働いているけれど、
あの殺人的な忙しさの2日間といつもを比べてはいけない。

本当にきつかった。

そして今日、26日も早番だったのは運が悪かっただけと思いたい。
決してシフトを作っている店長のせいではない。
休みの希望は特に出さず、雑貨屋のシフトに合わせてホストクラブで働いているため、
体力と睡眠からみると酷い状態になることが多々あるけれど、
ホストをしていることは誰にも言っていないし、
俺が勝手にしているんだから仕方のないことだ。


買い物に寄る体力もないまま雑貨屋から帰って、
湯船にゆっくりとつかって疲れた身体を休めようとしていたところに、
仕事(ホストクラブ関係)専用の携帯が鳴った。

昨日からメールやら電話がかかってきてはいるのだが、
返信する時間もなければ気力もなく、
一部の客を除いて多くが目を通すだけ終わっている。
返信は明日まとめてしようと思っていたところだった。

『もしもし』

「あの、いま大丈夫ですか?」

いつものように緊張した声が聞こえてきた。

『うん、大丈夫だよ』

「クリスマスは忙しいだろうと思ってたんですが、
 お仕事はどうでしたか?」
 
『あー、うん、すごい忙しかったよ。
 今日は休み。歩さんはもう落ち着いた?』

「はい」

『そっか、よかったね』


流れ込んでくる歩さんの声はいつもと変わらず心地が良い。
すっと心が落ち着いてくる。


「あ、あの!」

『うん?』

「すこし、会えませんか?」

『……いまから?』


時計を見ると夜の7時を過ぎている。
当然外は真っ暗だ。

「すみません疲れているのに」

確かにこの上なく疲れ切っている。
すぐにでも寝たい。
けれど……。

『いいよ、すぐに出られるし。どこに行けばいいかな』

クローゼットから服を取りだす。

「どこが一番近いでしょうか?」

『そうだね……』


実際は電車で20分もかからないところに歩さんは住んでいるけれど、
あんまりあの辺りはうろつきたくない。
このあいだ突然告白してきた女の人が通っている大学があそこにある。
もちろん歩さんもそこの大学生だし、
歩さん自身も人に見られたくないかもしれない。

『それじゃあ……』

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| 「僕の一日」  | 13:55 │Comments0 | Trackbacks0編集

僕の一日 115

クリスマス前になるとカップルが増えるのは気のせいではない、と思う。
街を歩けばやたらとイチャついたカップルを見かける。
普段からそんな光景は見慣れているけれど、
どうしてか寒い季節にそれを見せつけられると、
ほんの少し寂しさを感じる。

傍から見れば俺のようなホストはいつも女の人に囲まれて、
選びたい放題、選り取り見取りと思われがちだが、
実際はそういう関係は持たないようにしている人もいるという事を知って欲しい。


「ねぇねぇ、このあとホテル行かない?」

目の前のテーブルに無造作に置かれている数本のボトルを眺めながら話を聞いていると、
いつものように耳に息がかかるほどの距離で囁かれた。
誰かに見られているかもしれない、なんて、
こんな場所で考える人は少ないのかもしれない。

世の中の不景気なんて関係ないと思える程の高額なボトルをいつも入れてくれる京子さんが、
久しぶりに電話をかけてきたのが昨日のことだった。

グロスをたっぷり塗った唇を俺の首に這わせながら言葉を続ける。

「もう一本入れるから」

首筋にかかる生暖かい息に嫌悪感を抱きながらも、
優しくその頬に触れた。

『あまり無理をしないでくださいね。
 少し痩せたように感じるのは気のせいですか?』

「わかる?」

『少し頬が……』

パッと俺から身体を離すと、バッグの中から鏡を取り出した。

「いつもよりチークつけてきたんだけどなぁ」

鏡に映る自分の顔を見ながら京子さんが呟く。

『大丈夫ですか?』

「うん、平気。最近忙しくてあんまり眠れないだけ。
 それはホストも同じでしょ?」

京子さんはホステスをしている。
どこの店で働いているかは知らない。
ただ俺に落としてくれる金額からすると、かなり人気のホステスだろう。

『そうですね、この時期は』

「クリスマスには来れないから、ごめんね」

俺の肩にもたれかかりながら甘い声でつぶやく。

「だから今日行かない?」

書入れ時の12月後半。
はっきり言ってそんな余裕は体力的にも時間的にもない。
あったとしてもそういう関係にはならないと決めている。

少し離れたテーブルにはもう1人、俺の客がいる。

今は他のホストが相手をしてくれているが、
どうにも嫌な空気が流れている。

『京子さん、少しだけごめんね』

ぽんぽんと優しく頭に手をやって、その場を離れた。




『すみません、お待たせして』

京子さんが来るよりも先に来ていた女性客のテーブルについた。
何度か来てくれている中年女性だ。
自分の母親と同じぐらいの年齢だろうか。

相手をしてくれていたホストが「助かりました!」と顔で訴える姿にうなずき、
すぐに京子さんのところに行くように伝えた。

「もう帰ろうかと思った!」

よく言われる耳の痛い言葉を吐かれて、
心底申し訳なさそうな表情をしながら謝ると、
コロッと態度を変えて勢いよく抱きついてきた。
押し倒されそうになる身体を何とか支えて、
分厚い肉に覆われている背中に手をやる。
多分……というか確実の俺より10キロ以上重い身体は、
京子さんの倍はあるだろうか。

片手は背中にまわしたまま、もう片方の手でシャンパンをグラスに注いだ。
複数のテーブルを回るときは、相手に程よく酔ってもらうのがいい。
とにかく飲んでもらう。
そして酔ってもらう。できればほどほどに。
さらにボトルを入れてくれたら嬉しい、が……。

視線を京子さんがいたテーブルに向けると、
泣いているのを必死に周囲のホストがなだめていた。
泣かれたからといっていちいと動揺していてはホストは務まらないが、
機嫌を損ねて帰られても困ってしまう。
特に太客には。

京子さんはほかに気に入っているホストが何人かいる。
その中の誰かがついてくれると助かるが、
みんな指名が入っていて席を離れられない。
こんなとき、身体が2つあったらとホントに思ってしまう。


10代の頃の自分だったら、ふたり相手にするぐらい何てことはなかっただろう。
毎日たくさんの人に連絡をして、お店に来てもらってお金を落としてもらい、
少しでも多く稼ぐことばかりを考えていた。
お酒を飲めない分、ひたすら丁寧に接客をしたし、
まだ10代であることを利用して、年の離れたお金持ちと分かれば、
可愛い息子役を演て可愛がられるようにしていた。


2000万。


とにかく4年で2000万円を稼ぐこと。
弟が進路を考える頃には用意できているように。

それだけを考えていた。


結果的には2年経たないうちに、その額を貯めることが出来た。
この顔に初めて感謝したのもこのときだった。
ホストとして努力をしなくなった今でも、
こうやって稼げているのはこの顔のおかげだろう。
この顔に産んでくれた母には感謝しかない。
もちろん父にも。


いま高校2年の弟からは「奨学金でいくから」と言われた。
俺が稼いだお金で大学に行くことに抵抗があったようだが、
母親に説得するようにお願いし、
最終的には俺が稼いだお金で進学することを決めてくれた。


自宅から通える国立大へ行くと言っていたから生活費はかからない。
「もうお金は十分だから、無理はしないで」と母親に言われたが、
その言葉をそのまま返し、
「週2~3日のパートにして家でゆっくりしてよ。
 仕送りは続けるから。もう何年も旅行にいってないでしょ?
 弟が大学に行ったらゆっくり行ってきなよ」
そんなことを母に言って、翌日に旅行代として10万を振り込んだ。      

お金を稼ぐことがどれだけ大変なのかよくわかっている母は、
きっと無駄なものに一切使わず貯金をしているだろう。
それも大事なことかもしれないけれど、父が亡くなって10年以上働き通しなのだ。
少しぐらい贅沢したってバチは当たらない。

今年のお正月は久しぶりに実家に帰るのもいいかもしれない。
父親のお墓参りもしたいし。

母と弟にも会いたい。

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| 「僕の一日」  | 00:47 │Comments0 | Trackbacks0編集

僕の一日 114

薬をもらってから30分ぐらい時間が経つと、次第に痛みがひいていった。
頭痛薬を飲んだことがなかったけれど、ここまで効くとは思っていなかった。
感動ものだ。

バックルームを出るとレジには斉藤さんが立っていた。

「お、大丈夫?」

『はい、もう落ち着きました』

「良かった、効いて」

『びっくりしました。すごい効くんですね』

「うん。でも効くからってあんまり飲んじゃだめだよ。
 逆に頭痛がひどくなったり薬が効きにくくなるから」

『そうなんですか?買って常備しようかと思ってたんですけど』

「念のために買っておくのは良いけど、頻繁に飲んじゃだめだよ」


笑顔で答える姿に、「頭痛持ちなんですか?」と聞けず、
小さな声で「わかりました」とだけ呟いた。

「よし、じゃあ調子が戻ったなら相沢から仕事引き継いでもらえる?
 そろそろ上がりの時間だから」

『はい』


相沢さんのところに向かう前に、
石川さんが作業しているところへ行き、
もう大丈夫だということだけを伝えた。

「そっか、良かった」

いつものように優しく彼女が笑った。

ぎゅっと、胸が締め付けられた。

なんだか泣きそうになってしまい、急いでその場を離れた。
そんな俺を見た相沢さんが困った顔で小さくため息をついた。

「そういう姿を見るたびに切なくなるよ」
 
『……すみません』

「私こそごめん、少し言い過ぎた」

『いえ、正直なところ……言われてやっと気づいたというか……』

「そっか」

『はい……』

あとで電話してもいいかと聞こうと思ったが、やめた。
相沢さんに聞いても状況は何も変わらない。

自分でなんとかするしかない。

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| 「僕の一日」  | 16:47 │Comments0 | Trackbacks0編集

僕の一日 113

「不毛な恋」をしている自覚がなかっただけに、
相沢さんの一言は衝撃が大きかった。

不毛って……。
不毛ってなんだ。
不毛な恋?不毛な恋愛?
俺の場合は恋愛してるわけじゃないから……恋愛って相手と思いあっての言葉だよな。
一方通行は片思いになるし。

辞書にどう書いてあるか知らないけど、
恋愛は相手がいて成り立ってる恋のことを指してるのだろうし、
恋は恋愛のような意味もあるだろうし、一方的に思う意味も含まれてるはず。

恋と恋愛の違いって?
あれ?

違う違う。
そこじゃなくて、
相沢さが言った意味での「不毛な恋」は、
多分、敵わない恋っていう意味。
片思いで終わってしまうっていう……。
だから不毛……。


確かに進展もなく先の見えない関係だし、
今の状況が変わってしまうのを怖がっている部分もある。

でもそれは俺がいまの関係を壊したくないからで、
行動を起こせば何かが変わるはず。


きつく目を閉じて深く息を吸うと、
急にズキズキと頭と目が痛み出した。


『……頭……いてぇ』

「え?」

『え?』

「え?頭い痛いって言ったよね」

『声に出てた?!』

「うん」


いつの間にか隣にいた石川さんに気づかずに、突っ立っていたらしい。
接客を終えてレジに戻ってきていた。

「頭痛いって、大丈夫?」

『あ、うん、ごめん平気平気!』

「……顔色悪いけど」

『いや、ほんとに大丈夫』

「少し休む?」

『いや、忙しいし平気!』

「なにしたの?」


がこん、と台車を立てかけて、
ゴミ捨てから帰ってきた相沢さんが会話に入ってきた。

「有利くんが頭痛いって」

「なに、なんでさっき言わなかったの?」

『あーいえ、多分、片頭痛なんで大丈夫です』


あ、痛みが増してきた。
もうなんだっていうんだ。

「片頭痛って。それって酷いじゃん。薬とか持ってないの?」

『ないです……』

痛い。ガンガンする。
目も痛い。
なんだ急に。

「私レジ入ってるから少し休みな」

相沢さんがレジの責任者番号を打ちかえる。

『いえ、大丈夫なので……相沢さん早番だし』

「なに言ってんの。いいから少し休みなさい。
 ミサ、バックルームで休ませて」

「はい」

『あ、ほんとに大丈……いっ……』

ドクンドクンど頭に響く。
吐き気までしてきた。

「ほら、少し休もう」


バックルームのドアを開けて俺の背を優しく押した。
なるべく頭を動かさないように静かに歩く。

「どうした?」

斉藤さんが俺を見て立ち上がった。

「急に頭が痛いって」

『いや、大丈夫です』

石川さんの言葉にあわてて否定するも、
横になりたいぐらい痛くなっていた。
眉間にシワを寄せてしまう。

「片頭痛か?」

『多分……』

壁に立てかけてある折り畳みの椅子を俺の前に置いて、
「とにかく座れ」と斉藤さんが言った。
静かに刺激を与えないように座ったが、痛みは増す一方だった。

「石川はレジに戻って。相沢ひとりじゃキツイから」

「あ……わかりました」

斉藤さんの言葉に、そっと俺のそばを離れて彼女がバックルームを出て行った。
音がしないように静かにドアを閉めるのを見ながら、痛む頭を押さえた。


「なんだ天気でも悪くなるのかな」

『え?』

「気圧の変化で頭痛くなる人もいるんだよ」

『そうなんですか……』

覇気のない声で返事をすると、斉藤さんが顔を覗き込むようにしゃがんだ。

「熱は?」

『たぶん、ないです』

「ズキンズキン、ガンガン痛い?」

『はい』

「動くと痛みが増す?」

『はい』

「うん、片頭痛だね」

納得したような表情で自分のカバンをロッカーから取り出した。

「頭痛薬があったはずなんだけど」

『あー……少し休めば大丈夫なのでホントに』

「うーんと、あ、あったコレコレ」

手にしているのは見たことのないタイプの包装シートだ。
バファリンかなにかだろうか。

「水なしで飲めるんだよコレ。
 有利くんは普段なにか薬飲んでる?」

『え?』

「飲み合わせが悪いものがあるからこの薬」

『えーっと……』

「……なんか飲んでるのかな」

『……』


彼女以外、誰にも精神科に通っていることは言っていない。
親にすら。
他の人には知られたくない。


「その薬、飲んでからどのくらい経ったかは言える?」

『朝、食後に飲んだので……えーと……』

「よし、じゃあ次。
 今日、別の頭痛薬を飲んでないよね?
 身体のどこかが悪いとかもないよね?」

心臓のあたりを指さしながら、確認するように言った。
なんでそんなこと聞いてくるんだろう。
キツイ薬なんだろうか。
それとも頭痛薬は飲み方を注意しなきゃいけないものなんだろうか。

『えーと頭痛薬は飲んだことないし、
 ……えーと、健康体のはずです』

「よし、じゃぁ大丈夫だ。口の中で溶かして唾飲んで」

プチっと掌に出された薬を言われるがまま口の中で溶かした。

「あとは効いてくるまで少し休んで。その間は俺が出てるから」

『すみません……』

「あ、目を閉じてるといいよ。
 光刺激を与えない方がいいから」

『はい……すみません……』

「じゃあゆっくり、あ!」

『え?』

ドアノブに手をかけたまま斉藤さんが振り返った。

「俺から薬もらったっていうのは誰にも言わないでね」

『わかりました』

「うん、お願いね」

口に人差し指をあててにっこり笑ってバックルームを出て行った。
斉藤さんも頭痛持ちなんだろうか。

『はぁぁ……』

 
痛い。
気持ち悪い。

全部が、嫌になってくる。

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| 「僕の一日」  | 01:54 │Comments0 | Trackbacks0編集

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