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白い君と僕の青 138
2009-07-02(Thu) 02:00
クリスが城に来てから1週間が過ぎた日の午前10時過ぎ。
城の前には馬車が停まっていた。
手入れの行き届いたきれいなキャリッジ。
周囲には兵たちの姿があった。
フィレス家の警護兵たち、10人程度が二人の帰りを待っていた。


二人は玉座のある部屋でその主を待っていた。


「俺はなんとしてもハルの代わりをするよ」


玉座の前にある大きなテーブルに並んで座る親子。


「・・・・とにかく国王の意見を聞かないことには、どうしようもない」


隣に座る父親の言葉がクリスの心を不安にさせた。

部屋に通されて10分が過ぎただろう頃に、
扉を叩く音がした。

椅子に座っていた二人は立ち上がり、扉の方を見た。

そこには現在のこの国の国王、すなわちハルの父親と、
次期国王ハルの姿、そしてテトルの姿があった。


「急遽、テトルにも参加してもらうことにしました」


そう言いながら国王は、クリス親子と向かい合う形で、
テーブルの椅子に座った。
そのとなりにハル、テトルの順に腰を下ろした。


「さぁ、座ってください」


国王がそう言うと、失礼致しますと、立っていた二人が座った。


「まず、わざわざ城にお越し頂いた事に感謝します」


そう言って、国王は頭を下げた。
続けてハルとテトルも同様に頭を下げた。


「話は先日、テトルと二人で聞きました。
 以前より肺の異常についてはテトルから聞いていました。
 しかし喉の異常、そしてこの二つが同時に起こる病気だとは、
 本人から聞くまでは知りませんでした」


国王は淡々と話した。



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白い君と僕の青 137
2009-06-30(Tue) 01:47

ハルが部屋から出て行ってから2時間を過ぎた頃には、
机の上の書類はほとんどなくなっていた。
クリスには不明なものだけが残してあった。


「はぁぁ・・・こんなの毎日やってて、よくノイローゼにならないな」


机の上にうなだれ、ため息をついて静かに目を瞑った。


ハルが戻って来ない。
きっと二人に話をしているのだろう。
どんな風に話しているのだろう。
どんな風に自分の身体を説明しているのだろう。

二人はどう思うだろう。
次期国王が、不治の病とも言える状態だということ。
俺ならどう説明するだろうか。

それよりも、唐突に宣告を受け、理解出来るだろうか?
仮にも武術や歌うことが好きならばなおのこと。
好きなものが出来なくなることに、恐怖は感じないのだろうか。

死ぬことはない。
しかし死ぬことと等しくもある苦しみを味わうかもしれない。

それは現実の痛みではなく。


まだ帰らないハルの机の上で頭を落としながら、クリスは考えた。



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白い君と僕の青 136
2009-06-29(Mon) 03:02

両手で頬をパンパンと軽く叩くと、ハルは書類に手を出した。
そしてクリスを見て、軽く笑った。


「ハル。俺と代われ」

「え?」


ハルの笑った顔を見たクリスが真顔で言った。


「いいから代われ。お前は寝てろ」

「いや、でも・・・・」

「どうせこの先は俺がすることになるんだ。
 慣れておいた方がいいだろう?」


そう言って、椅子に座っているハルを無理矢理どかせ、
自分が座った。

ベットに座り、自分がいつも座っている椅子に座るクリスを見て、
ハルはなぜか寂しくなった。


この先、本当にこうなる日が来る。
自分で望んだことなのに、そこには自分がいない。


黙々とペンを走らせるクリスはハルの視線に気付き、手を止めた。
書類を見たままの姿勢で聞いた。


「なぁ、お前さ。言いに行ったのか?」

「え?」

「俺にこれらを任せるってこと」

「・・・あ、まだ・・・・」

「そっか・・・・ハル」

「ん?」

「お前、まず夕飯食べろよ。その間にやっておくからさ」

「クリスは食べたのか?」

「俺はさっきごちそうになったよ」

「あ、そう」


意外そうな返事をしてハルが立ち上がった。


「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」

「はいよ、行ってらっしゃい」


ニコニコと笑って手を振るクリスを見て、何か差し入れは?と、
ハルが聞くと、大丈夫だよ、とクリスが行った。


ハルの部屋の扉が閉まると、クリスは真顔に戻り、ペンを握った。


「ちゃんと言ってこいよ、二人に」


ひとり呟きながら、また書類にサインをしていった。



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白い君と僕の青 135
2009-06-28(Sun) 02:32
ひとりその場で浮いている。

クリス自身、ひとり城下を歩くことは珍しかった。
城と家の行き来はあっても、余計なところに足を運ぶことはない。
言ってしまえばクリス程の貴族が、
自ら城下に用足しに出かけることなどないのだ。

貴族たちの集まりで出かける際に、
馬車の中からその街並みを見下ろすぐらいである。



街の人たちの目は、否応なくクリスへと向かう。
貴族と一目でわかる格好をしているせいで。

しかし本人はそんなこともお構い無しに、
きょろきょろと周囲を見ながら歩いて行く。


そして暗い道へ顔を覗かせた。



ハルが城へ戻った頃には外は暗く、
街では人々の笑い声があふれ出した頃。
自室へと力の抜けた身体を引きずるように歩く。

部屋に入るなり、ベットへと倒れこむ。


頭も痛いし喉も痛い。
なんだか胸のあたりが重く苦しい。


横目に机の上を見ると、いつものように書類が山となっていた。


「・・・・はぁ」


重いため息をついて、ゆっくりと立ち上がり机へと向かった。
そのとき部屋の扉を叩く音がした。


「はい、どうぞ」


元気のかけらもないような声で返事をする。


「なんだその返事。大丈夫か?」


扉を開けながら、ハルの親友が言った。


「あぁ・・・ちょっと疲れただけだよ」

「嘘をつけ。今までどこで何をしていた?」


扉を閉め、ハルのいる机まで歩いていく。


「んー・・・ちょっとね・・・・」

「お前さ、最近また頑張りすぎじゃないのか?」

「前に比べたら、そんなことないよ」

「でも身体は疲れたって言ってるんだぞ」

「そうかもね・・・・」


クリスの言葉も上の空のハルは、机の上で肘をついてため息をついた。
老人との会話が頭から離れないでいた。

ハルがいる机の上に寄りかかりながらクリスが言った。


「今日、見てきたよ。
 城下の・・・裏の方」


その言葉にハルの目がクリスへ向く。


「行って、少しうろうろしたら、何度か襲われたよ」

「そうか・・・・」


また視線を机に戻しながらハルが呟いた。


「あれさ、確かにパッと見ると子供とか、女の人とか、
 明らかな犠牲はないかもしれないけど、でも何か違うんじゃないのか?」


俯いているハルを見ながらクリスは言った。

確かに良くなっている。
しかし根本的解決には至っていないとクリスは感じていた。


「・・・・そうなんだ。
 今日はそれでちょっと色々と・・・・」


元気のない声は変わらずに言った。


「あそこにもっと光が入らないとな」

「・・・・うん。そうだな」




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白い君と僕の青 134
2009-06-26(Fri) 02:34
「あの人?」

「はい。私を生かしてくれた人です」

「命の恩人?」

「そう、言えるのでしょうね」


老人はそう言うと、箱へふたをした。
あちらへ、と椅子がある方へと戻るように促した。
さっきと同じように老人と向き合ったハルは、
その口調からその人について聞くのをやめた。
はじめて、老人の声が感情を持ったように聞こえた。


「人を殺したことがある人は、その痛みがわかるというのですか?」


ハルは少しだけくぐもった声で聞いた。


「全員が当てはまる、とは言い切れません。
 しかし、少なくとも誰しもがはじめはの頃に感じるはずです」

「何をですか?」


質問攻めのハルの姿に、少しだけ笑った老人が言った。


「なぜ、自分がこんなことをしなければいけないのか。
 こんなことをしなければ生きていけないのは、なぜなのか」


ハルの瞳孔が小さくなる。


「その苦しみを、何も知らない者に一言で片付けられるなどと、
 考えられないことです。
 ならばこの苦しみから解放して欲しい。 
 この場から救って欲しい。
 少なくても、私はそう思いました」


静止したままのハルに気付きながらも老人は話を続けた。


「そうして苦しんだ果て、その捌け口はどこに向かうと思いますか?」

「・・・・・」

「想像がつきますよね。
 そうやって裏では輪が切れることなく、回り続けているのです」


あぁ、サクラ。
本当に気付いていなかったよ。
俺は何を見ていたんだろうね。


思っても届かない気持ちを留めて、ハルは顔を両手で覆った。


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