『僕の一日』 


                    た
                    だ
 
                    わ
                    か
                    っ
                    か
                    く
                    れ
                    る
                    だ
                    け
                    で
                    よ
                    か
                    っ
                    た
                    は
                    ず
                    な
                    の
                    に

 

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春の一日
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冬の一日 56



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| 「僕の一日」  | 15:31 │Comments6 | Trackbacks1編集

冬の一日 6

6

勝手に想像して気分が落ち込んでしまい、
そんな顔を見られたくなくて外ばかり眺めていると、
家電量販店の看板が見えた。

「着いたよ。酔った?」

「ううん、平気」

「そう?」


笑って声をかけてくれる。
優しい声。


「じゃあ、さっさと決めて夕飯食べに帰ろう」

「うん」


お店の中に入り、暖房器具が置いてあるところに向かって歩いていると、
突然後ろから声をかけられた。

「すみません」

べたっとした嫌な感じがする声に振り返ると、
そこに居たのはスーツを着た若い男性。
パーマのかかった髪は金色に染められていて、
チリチリと痛んでいるのが目についた。

斉藤さんの知り合いかと思い隣を見ると、
顔色一つ変えずに男性を見つめていた。

「なんでしょうか?」

威嚇にも聞こえるトゲのある口調で斉藤さんが言うと、
少しうろたえながらも男性はポケットから名刺を取り出した。

「わたくし○○芸能事務所の者ですが、突然すみませーん」

私の方は見向きもせず斉藤さんに向かって名刺を差し出しながら言った。

どうやらスカウトらしい。
しかもこんなところで。

「いま駐車場で見かけて。
 モデルや芸能界に興味はありませんか?
 アナタなら間違いなく……」

「結構です」

営業スマイル全開で話し出した男性の言葉を遮るように、
斉藤さんが強く言った。

「あ、えぇーと……○○という大手の事務所ですので、
 そのあたりがご心配なら……」

「興味はありませんので」

名刺に視線を向けることもなく、
目を見つめたまま不機嫌そうな顔で答える姿に圧倒さたのか、
男性がたじろぎ始めた。

一瞬、不気味に笑うと、すぐに頬を引きつらせて困った顔をしたので、
引き下がるのかと思いきや、逆に喰らいついてきた。

「一度うちの事務所に来ていただけないですか?!
 すぐ手配しますから!」

「結構です」

手を合わせて懇願する姿にわずかな動揺も見せず、
キッパリと言い放った。

苛立ちを見せ始めた斉藤さんに、
男性はあきらめたのか肩を落とした。

「わかりました。呼び止めて申し訳ございません。
 ですがこれだけは受け取ってください」

すっかり落ち込んだ声で頭を下げ、
斉藤さんの胸元に名刺を差し出した。

斉藤さんがそれを無言で受け取るとジロリと私を睨み、
ビクッと身体が反射的に硬直したのを見て、
半笑いで足元から舐めるように視線を動かした。

目が合うと憐れむような顔で笑った。


あ……。


見下され、馬鹿にされているのがわかった。

「彼女がなにか?」

私の手を握り、斉藤さんが言った。

「いえ、なんでも」

男性は私に一瞥を投げたあと、
ニヤつきながらお店の出口へ向かって歩いて行った。

こんな女が彼の隣にいるのは滑稽だと言われた気がした。


ぎゅっと締め付けられた胸のせいで、
相手が居なくなってもうまく息が出来なかった。

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| 「僕の一日」  | 15:28 │Comments0 | Trackbacks0編集

冬の一日 5

5

「ここにに居ていいよ」と斉藤さんが言ってくれた。

私が考えてることを言わなくても分かっていて、
大丈夫だよと言ってくれる。
優しく髪を撫でてくれることが、たまらなく嬉しい。


自分と似ているわけじゃない。
むしろ正反対の人なのに、傍に居るだけで安心する。
この人の隣に居れば何も心配はいらない。
どんなときでも助けてくれる。
手を引いてくれる。
そう思える。


だから錯覚してしまう。
自分は斉藤さんにとって特別なんじゃないかと思ってしまう。



仕事が終わり斉藤さんと私は定時で上がった。
みんなには気づかれないように、
私はすぐにお店を出て帰ったふりをして、
ビルから少し離れたところで斉藤さんの車を待った。

程なくして斉藤さんが車で待ち合わせの場所に来てくれた。


「ごめん、寒かったでしょ?」

「ううん、大丈夫」


助手席のドア開けて荷物を後部座席に置いてくれた。


「さて、電気屋に行こうか。
 それとも夕飯食べちゃう?」


私がシートベルトをしたのを確認すると車を走らせた。

「帰ったら何か作るよ。昨日買った残りもあるし」

「そう?じゃあ電気屋に行こうか」

「うん」


こうやって普通に斉藤さんの車の助手席に乗って買い物に行くと、
ホントに付き合ってるような気持ちになってしまう。

彼女がいるかもしれないのに。

でも……彼女いる人が、家に女泊めたりするかな。
しないよね。
たぶん。


あの家にいると、
斉藤さんが誰かとふたりで暮らしていただろうと思われる跡がたくさんあることに気づく。


あの広いマンションにひとりで住んでることとか、
家電のサイズがひとり用ではないこととか。
調理道具が一通りあることも、
食器のほとんどがペアで揃えられているところも。

そんなの最初に部屋に来た時から気づいていたけど、
なにも聞けずに時間だけが過ぎてしまった。

だから期待しない方がいい。
もしかしたら、なんて思うから裏切られた気持ちになる。
はじめから期待しなければいい。
そうすれば打ちのめされずに済む。

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| 「僕の一日」  | 16:16 │Comments0 | Trackbacks0編集

僕の一日 111

運よく確保できた居酒屋の個室で、
ソフトドリンクと適当に注文したつまみを口に運びながら歩さんの話に耳を傾けた。

言いたいことがイマイチまとまっていなかったけれど、
要約すると「俺と会って話がしたかった」のようだ。

男の俺に対しても、
「何を考えているのか」という事や「自分の希望」を口にするのは苦手のようだが、
それ以外のことになると普通の大学生と変わらず、
楽しそうにおしゃべりをする。
大学生活に支障がでないでいるのはそのおかげかもしれない。

「このあいだ先生が話していたんですが……」

嬉しそうに大学での出来事を話す姿を見ていると心が和む反面、
自分もこういう学生生活を送ってみたかった気持ちがこみ上げてくる。
高校を卒業後、
ホストとして働くことを選らんだ自分の判断が間違っていたとは思わないけれど、
友達と楽しそうに会話をする学生や、
サークル仲間らしい集団をみかけると、
本当はそうありたかったと思う気持ちが溢れてくる。

大学生らしい生活や時間というものに、強い憧れをいまも抱いている。


「~それでそういうのを…………どうか、しましたか?」

別なことを考えているのが顔に出てたらしく、
話しを中断させてしまった。

『あぁ、ごめん。なんでもないよ。話を続けて』

グラスに残っていたジュースを一気に飲み干し、
店員に追加をお願いした。

「……疲れますよね、私ばっかり……すみません」

自分のせいだと勘違いした歩さんが申し訳なさそうに呟く。

『違う違う、歩さんは悪くないよ。
 俺が勝手に思い出してボーっとしてただけ』

「……何を?」

『うーん、学生時代?』

「いま22歳ですよね?」

『うん、大学に行ってたら4年生』


仮に大学行っていたら今頃俺は何をしていたんだろう。

就職先が決まって明るい未来でも描いていたかもしれない。
これからは自立するんだ、大人なんだと。

「あ、あの……ホストして長いんですよね?」

『うーん、長いのかなぁ……そうでもないかな。
 もう少しで4年になるんだけどね』

「え?!」

今までにないぐらい大きな声に驚く。

『どうしたの?』

「えっと、だって22歳って」

『うん、そうだよ』

「まだ未成年……」

水商売は20歳以上しか出来ないと思っているようだ。

『お店にもよるけど、基本的に18歳以上ならホストになれるよ。
 大学生で学費を稼ぐためにやっている人もいるし、
 ホストじゃなくウェイターとして働く人もいるし、
 日中は普通にサラリーマンしてる人もいるしね。色々だよ』

「失礼します」と運ばれてきたグレープフルーツジュースを受け取りながら話を続けた。

『イメージとして女遊びをしたい人とか、
 モテたい人がホストになるって思っている人もいるけど、
 基本はお金を短時間で稼ぎたいっていう人が多いかな。
 学生がそうであるように、実家に仕送りするために働くサラリーマンとか、
 将来お店を持ちたいとか欲しいものがあるっていう人もいるし、
 自分の接客技術がどこまで通用するか試す人も、
 接客のノウハウを学ぶためにホストをする人もいるから』

「そうなんですか」

『まあ、お金の為だから頑張れるところもあるんだけどね。
 女の人が目当ての人だって、
 自分のとこにどんな客がくるかわかんないし、
 頑張らないと指名もらえないから、
 その辺は世間のイメージとは違ってかなり大変なんだよ』


ホストになれば楽にお金を稼げると思っている人が多い。
でも実際のところはそう簡単ではなくて、
入って1ヶ月で辞めてしまう人も少なくない。
簡単な気持ちでは続かない仕事なのだ。

『あとお酒に弱い人はキツイ世界なんだよね』

手にしているジュースが入ったグラスを見ながら笑った。

「そういえばお酒飲んでないですね」

『アルコール類は得意じゃないんだ。
 仕事だから飲むけど、今はあんまり無理して飲まないようにしてるし、
 ウーロン茶でごまかすときも多いよ』

「そっか、それでお酒臭くないんですね」

『俺自身、お酒の臭いダメなんだよ。煙草もダメだし。
 基本的に水商売向きじゃないんだろうね』


そう。
なりたくてホストになった訳じゃない。
短期間でお金を稼ぐ手段として、
自分にはこの方法しかないと思ったからホストになっただけで、
それ以上の理由なんてない。

ただ、それなりの覚悟は自分なりに持っていた。

「じゃぁ、どうして10代でホストに?」

まだ曇っていない、大きく綺麗な瞳。
向けられる言葉も心も、悪意はない。
2つしか離れていないのにひどく幼く見える。

『俺のことはこのくらいで、さっきの話の続きを聞こうかな』



俺の言葉に何かを察した歩さんが話題を元に戻した。

間なんだろうか。
ずっと話を聞いていても疲れないのは。
歩さんの間のとり方や声の抑揚が心地よい。
人を落ち着かせる柔らかい話し方。

男の人を前にするとすぐにテンパって言葉を詰まらせるけれど、
それを除けば穏やかな口調に優しい空気を含ませている。


彼女みたいだ。


『……』


あのとき、
俺は何を思って石川さんに合鍵を渡したんだろう。


リストカットしていることを知ってもなお、
優しく接してくれ身体を心配してくれる彼女に、
今の状態から救われたいと思ったのは確かだった。
それならなにも合鍵を渡さなくても、
電話で話を聞いてもらうとか、
どうとでもやりようはあったはずだった。

彼女も拒むこともなくすんなり受け取ってくれたし、
マンションまで様子を見に来てくれるようになったから、
深くは考えていなかったけど。

今思えばとんでもないものを彼女じゃない、
ただの仕事仲間に渡してたんだ。


『うわぁ……』


恥ずかしさのあまり赤面してしまっている自分に気づいて、
両手で顔を顔を隠した。

「え?!どうかしましたか?」

おかしなタイミングで唸りだした俺に驚いて、歩さんがあわてた。

『いや……もう、穴があったら入りたい』

そうだ、なんで俺は合鍵なんて……そんなこと。
しかも今更……。

「あの、どうしたんですか?」

『ごめん、すごい個人的なこと』


意味不明な言葉に困った表情を浮かべる歩さんを見つめて一呼吸置いた。
いまここに居る人は彼女じゃない。

『そうだ、歩さんの名字聞いてなかった』

空気を変えるように声に力を込めた。

「あ、すみません言ってませんでした。
 瀬能です。瀬戸内海の瀬に芸能の能で、せのうです」

『せのう、せのうあゆみ』

ポケットから携帯を取り出し、
登録している名前をフルネームに編集した。

『瀬能。瀬能……きれいな響きだね』

「そうですか?私はもっと普通の名字がうらやましくて」

『あぁ、確かに』

普通の名字にあこがれる気持ちはよくわかる。
俺も間違えず一発で読んでもらえたためしがない。


『鈴木さんや高橋さんっていいよね。
 ハンコを買いに行って無くて困るなんてことないだろうし』

「100均で自分の名字を見かけたことがないんですよね」

『店頭には置いてるところがなくて注文しないと手に入らないんだよね』

「はい。お店に置いてある人が羨ましくて」

『そうそう。
 でもありきたりな名字の人は珍しい名字に憧れるみたいだよ』

「えー、何も得することなんてないですよ」

『ないものねだり、ってとこかな』

「そうですね」


ゆったりとした空気が流れる中で話をし続け、
始発の電車を待って、駅まで歩さんを送った。
駅のホームで電車を待っている間、
何度もお礼を言ってくれた歩さんの声を耳に残したまま、
俺はその足でホストクラブに戻り、早朝営業でも働いた。

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| 「僕の一日」  | 01:00 │Comments0 | Trackbacks0編集

僕の一日 110

いつのまにか降り出した雨のせいで、道路には水たまりができ始めていた。

お店に放置されている大量の傘の中から透明のものを2本失敬して、
早歩きで歩さんが待つファミレスに向かった。

お店の前に着き、入り口から店内を見ると、
まえと同じ席に座っている歩さんのところにサラリーマン風の男性2人が座っていた。

『……知り合い?のわけないか』

一瞬考えてから、かぶりを振って店内に入った。

「いらっしゃいませ~。一名様で~」と、
笑顔で言う店員の声を無視して彼女の席へと急いだ。

『ごめん、待たせた』

硬直していた歩さんが俺を見るなり、
反射的に俺の袖口をつかんで何度も頭を横に振った。

「なんだよ~兄ちゃんも狙ってんのかよ~」

場違いな言葉が向かいの席から発せられる。
酔っ払いの中年オヤジ2人に絡まれ歩さんは、すっかり怯えてしまっていた。

『行こう』

歩さんの手を引いてその場を去ろうとすると、
酔っ払いの1人が俺の前に立ちふさがった。

「なんだよ~、ちょっとぐらい良いじゃねーかよ」

『……』

返事もせず伝票を抜き取り、そのままレジに向かった。
「無視すんじゃねーよ」と言いながら近づいてきたが、
怯える歩さんをかばいながら会計を済ませて店を出た。
酔っ払いも一緒についてこようとしていたが、
どうやら自分たちが食べていた分を支払っていなかったようで、
不穏な空気を察した店員に呼ばれた年配の男性スタッフに止められていた。

コートを手にしたままの歩さんに着るようにうながし、
持っていた傘を開いてから差し出した。

「あの、この傘は……」

『お店にいっぱいあるから持って帰っていいよ』

「ありがとうございます」

『ごめんね、来るのが遅れて』

「そんな、私が付き合ってもらってるのに」

『ファミレスは安全だと思ってたんだけどなぁ』

「私もびっくりしました」


可愛いから仕方ない、とは言えない。
知らない人に絡まれるだけでも怖いのに。

『さて、どこに入ろうか?
 カウンター席とか狭い居酒屋は、ちょっと嫌だよね?」

「……すみません」

となる入れる店は限られてくる。
この時間になると閉店し始めるお店が多い。

どうするか考えていると、
向かい側からすっかり出来上がっているサラリーマン集団が歩いてきた。
サッと俺の陰に身を隠す歩さんを見て、
早くどこか見つけなければと、携帯を取り出してネットで調べた。

『うーん……この辺だと個室がある居酒屋か、あとはカラオケとかかなぁ……』

「あの、どこでも……」

申し訳なさそうに呟く。

『とは言っても』

歩さんが一番大変なのかもしれないけれど、
目を離した隙に絡まれたりナンパされるのを追っ払う俺も大変なのだ。
酔っぱらっている人が多いだけに居酒屋は気を付けなければならない。

『個室空いてるか電話してみるか』

カラオケはちょっと話をするにはあんまり向いてないし、
個室のある居酒屋に電話をかけて空いてるか聞いてみることにした。


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| 「僕の一日」  | 02:54 │Comments2 | Trackbacks0編集

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